22歳のとき、日本の就職活動はイヤだ! とドイツに行き、そこで甘くない現実に直面したライターの雨宮紫苑さん。移住してから5年あまり、4月にはドイツの男性と結婚することになった。かくいうドイツ、「物を買わない」ことで有名だが、実は世界トップレベルでお金をかけることがひとつあったーー。
本当に買わないドイツ人
ドイツに住んでから、物欲という物欲がまったく刺激されなくなった。
iPhoneなんて高いだけ。10年前の電子レンジも動くから問題なし。このレコードプレーヤー、おじいちゃんの代からずっと使ってるの。かっこいいでしょ。ファッショントレンド? なにそれ。見て、このコート、半額だったの!
レストランで食べ残せば、「捨てるのはもったいないから持って帰って家で食べて」と言われ、友人や家族同士でモノを譲りあうこともしばしば。いらないものをダンボールに入れて「ご自由にどうぞ」と道端に置いておけば、あっという間に空になる。
留学中、学生寮に住んでいたとき、ドアノブに玉ねぎとジャガイモが入った袋がかかっていたことがある。「クリスマスで帰省するから食べて!」と知らない人の名前が書いてあり、「ちょっと気持ち悪い……」と友人に言ったら、「じゃあ俺が食べるからちょうだい」と言われた。
ドイツでは一事が万事、こんな感じである。
廃品回収車はいらない?
一番驚いたのは、去年の引っ越しのときだ。
1年に1回無料で廃品回収車を呼べるので、後日回収してもらうおうと2階の家とエントランスを行ったり来たりして家具の残骸を家の前に放り投げていたときのこと。さっき捨てた1000円ちょっとのIKEAのテーブル(ずっと使わず放置していたのでかなり汚い)を持ち帰るご近所さんに遭遇した。
汚いままだったので「あ、それ、わたしの……」とやや気まずく言うと、彼は「ちょうどテーブルほしかったんだよね。ありがとう」と満面の笑みを返してくれた。
回収車の予約の際「ほかの人が便乗して家具を置いているかもしれないけれど、あなたのものしか回収しないからわかりやすくまとめておいてくれ」と言われたので、回収日の前日、前住んでいた家に行った。すると……
なんと、家具の残骸がなくなっていたのだ! 本棚の板はたわんでいたし、ワードローブは力任せに解体して金具が折れてるし、そもそもドロドロの芝生の上に置いて雨ざらしになっていた家具の残骸、もはやゴミなのに。それを、だれかが持ち帰ったのだ!
「いやドイツ人、どんだけ物捨てたがらないの……?」
ちょっと引いた。日本だと引越しの際はずらりと(そして几帳面に)粗大ゴミが並べられていることを考えると、ずいぶん様子がちがう。