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給料未払い、電気も止められて…TENGA社長の「壮絶過去」

松本光一社長に聞く
夏目 幸明 プロフィール

70歳の女性からの電話

自動車の整備をしていた時代「アイツは給料払わなくても働くから」と、半年以上給与をもらえなかったことがあります。家賃もろくに払えず、帰宅した瞬間に、まったく環境音がせず、「あっ、電気が止まったのか」と知るような日々でした。

そんな状況におかれると人は、食欲や性欲など、根源的欲求が冴えてきます。食堂でカレーを頼んでも「肉がいくつ盛られるか」が気になるのです。

その時に気づいたことが2つあります。

まず、人にとって根源的欲求がどれだけ大きいのか。そして、追い込まれると、人は自分のことで精一杯になり他の人に気遣いできなくなると思うのですが……それでも思いやりを捨ててはいけないということです。これが、TENGAの製作と経営に活きたのだと思います。

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うれしかったのは発売から数年後、ある女性誌に商品が載り、70代の女性からお電話をいただいたことです。60~70歳になっても男性の性欲はなくならず、4人に3人が性交への願望がある、という統計があります。

しかし女性は常に対応できるわけではありません。そこでこの70代の女性は「どう使えばいいのですか?」と、わざわざご連絡をくださったのです。私の思いは、幅広い層の人に伝わりつつある、と感無量でした。

 

私はTENGAをアダルトグッズという枠におさめようとは思っていません。人が根源的に持つ性欲を誠実に受け止め、男女、夫婦やカップル、高齢者、障がいがある方、LGBT、すべての方に、豊かな性生活を届けたいのです。

昨年8月には大阪の大丸百貨店で「iroha」という女性向けブランドの期間限定ストアをオープンしました。来場者は14日間で約1500人、母娘や高齢の方もお越しくださいました。

東京でも今年3月から有楽町の百貨店「阪急メンズ東京」に常設店がオープンしました。百貨店でTENGAを扱ってもらうのは日本初。メッセージは「愛と自由とTENGA」です。

情熱を抱いて思い切って動けば、予定調和を遥かに凌ぐ出来事が起きます。私はこの事業で世界の文化を変えていきたい。皆さまもぜひ、一度試し、応援していただければと思います。

松本 光一/株式会社TENGA代表取締役社長
'67年、静岡県生まれ。静岡工業高等学校電子科を卒業し、自動車整備専門学校へ入学。夏休み、トラック整備工場に「無給でいいから」と志願、自動車整備の技術を身に着けた。その後、自動車整備会社等を経て、'05年有限会社TENGAを設立、代表取締役社長に就任し、以来現職。'06年に株式会社化

『週刊現代』2019年3月30日号より