2001年に『プラナリア』で直木賞を受賞した山本文緒さん。1991年刊行、ドラマ化もしているベストセラー『恋愛中毒』が再び大ブレイクしている。

そんな山本さんは『そして私は一人になった』『再婚生活』というエッセイも出しているように、離婚と再婚経験者。漫画家・伊藤理佐さんとの共著『ひとり上手な結婚』は結婚に関する読者からの質問に答えるという文庫情報誌での連載を加筆修正してまとめたもので、リアルな結婚のお悩み相談に鋭くも優しい言葉で答えている。今回はその中でも反響の大きかった質疑応答を『ひとり上手な結婚』から抜き出し、デジタルメディアとして初めて抜粋掲載する。

読者からの質問

連載をいつも愛読しています。しかし質問がすべて「結婚できる人たち」によるものだということに時折胸が痛みます。私は現在45歳で独身、勤務先も大手ではなく、見た目も地味。おしゃれも苦手です。お酒や美味しいものは好きだし、男友達と飲みにはよく行くのですが、女性を「誘う」以前に出会わないし、「このまま結婚しないんだろうなあ」とぼんやり思っています。世間の人はどうやって結婚しているのでしょうか。

(45歳 良平 未婚)

私の悩みを聞いてください

結婚のお悩みの話をする前に、私の悩みを聞いて頂けますでしょうか。

私は大変に運動神経が鈍いです。それはそれはひどいです。子供の頃、跳び箱が全然飛べませんでした。バレーボールのサーブも向こうのコートまで届きませんでした。体育教師は一様に呆れ、優しい言葉をかけてもらったことは一度もありません。

おどおどして半泣きになっている私にクラスメイトは冷ややかでした。だから体育のある日は朝から激しく憂鬱だったし、一時間弱の体育の授業が私には長い長い拷問の時間に感じられました。

何もできないに等しかった私ですが、少しだけマシだったのは鉄棒です。それは実家の庭に親が鉄棒を立ててくれたので、みっちり練習することができたからです。自分以外の人が、ぶっつけ本番で背丈くらいの高さのある棒を飛び越えたり、平均台の上でジャンプできたりすることに唖然とし、そして放課後に走り高跳びセットとか平均台とかを貸してもらえたらと強く思いました。そうしたら友達に教えてもらって練習するのに。

実際に体育教師に頼んでみたこともあったのですが相手にされませんでした。私は本当に、多くの人が何の苦もなくできていることができなくて、恥ずかしくていたたまれなかったです。

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しかしそんなことも昔々の思い出話で、もうとっくに大人なので自分の運動神経について悩むこともありません……と言えたらどんなにいいでしょう。苦悩は今現在も続いています。他人から運動を強要されることはもうありませんが、社会生活においても運動神経が鈍いことで、折に触れ劣等感に苛まれています。子供の時もつらかったですが、いま思えばそれは「やりたくないのにやらされていた」と言い訳ができます。現在の悩みはもっと、ふがいない己の有り様をそのまま受け止めなくてはならなくて厳しいです。

先日、久しぶりにそのことを実感する出来事がありました。実は初めて酒井順子さんにお会いする機会があったのですが、それが仕事がらみではなく、ただ単にみんなでアイススケートをして遊ぼう、という企画だったのです。この冬、期間限定で都心に小さなスケートリンクが設置されて、ひょんなことから酒井さんを交え複数の編集者とそこへ遊びに行くことになったのです。