小説家で漫画家の折原みとさんは、姉と共同で茨城県で古民家の経営をしている。昨年の5月、そこである女性の遺作展が催された。作者は岩本英子さん。元教師で民生委員としても地元で慕われていた彼女は、今から5年前、がんで天国へ旅立った。この遺作展は、夫である岩本泰則さんが主催し、実現させたものだった。そこには、大切な伴侶を失って一時は絶望した岩本さんが、懸命に立ち直った想いのすべてがこめられていた。

折原さんが経営する古民家で、遺作展は行われた 撮影/折原みと

 前編「40年寄り添って暮らした妻に余命宣告、その時夫は……」こちら

茫然自失の日々

愛する人を失った時、残された者の悲しみは計り知れない。時として、パートナーに先立たれたことで生きる気力を失い、鬱を発症したり、セルフネグレクトの状態に陥る場合さえあるという。そんな絶望に直面した時、どうやって心を立て直せばいいのだろうか? どうすれば、前を向くことができるのだろうか? 
 
66歳で最愛の妻を失くした岩本泰則さんの著書『がんの奥さんでごめんね』には、絶望からの回復と再生の記録が、克明に記されている。
 
2014年4月、苦しい闘病の末に妻の英子さんが亡くなった当初、岩本さんは悲しみと喪失感とで茫然自失の状態だった。これからどうやって生きていけばいいのかわからない。できれば、自分もこのまま死んでしまいたいとさえ思った。

車を運転していても信号を無視し、いつのまにか別方向に向かって走っている。役所で受け取った戸籍謄本には、妻の名前にバツがついて「除籍」とあった。その当たり前のことを受け入れることができない。こんな苦しみをこの先ずっと背負っていかなければならないのかと思うと、辛くて胸がつぶれそうだった。
 
そんな岩本さんを支えたのは、娘や息子たちだった。隣町で暮らしていた息子は、告別式後の1週間、家に泊まってくれた。独りの生活になってからは、娘、息子夫婦たちからの電話やメールに支えられて、何とか日々を過ごしていた。

友人からも電話をもらったが、「いつまでもクヨクヨしてちゃだめだよ」という言葉が受け入れられない。励ましてくれる気持ちをありがたいとは思っても、「この悲しみは自分にしかわからない」と心を閉ざした。

他人に情けをかけられると、感情や涙があふれて疲労感に襲われるのだ。だから、人と会うのを避けていた。
 
ひとりで背負わないでくださいね。英子さんはみんなの心の中に生きてますよ」
 
励ますのではなく、ただ寄り添ってくれる言葉の方が嬉しかった。お線香をあげに来て、妻の思い出話をしてくれるご近所さんの気遣いが胸にしみた。