罠、兵糧攻め、自爆…いまこの瞬間も続く植物の「戦争」をご存じか

植物は「ボーっと生きて」なかった!
ブルーバックス編集部 プロフィール

豊臣秀吉も顔負けの「兵糧攻め」

戦国時代の武士の戦い方といえば、刀や弓矢で相手を殺す、あるいは途中から登場してきた鉄砲あるいは大砲などを使用することが思い浮かびます。しかし、戦い方はこれだけではありませんでした。

その一つの例が兵糧攻めです。豊臣秀吉とその参謀の黒田官兵衛が、三木城や鳥取城に対して行った兵糧攻めは歴史的にも有名な話です。

病原菌に対する植物の防衛戦略の基本は、抗菌物質の産生であり、これは弓矢や鉄砲のようなものとして捉えることができます。しかし、植物も実はこの兵糧攻めを病原細菌に対して行う場合があることが、最近の研究により明らかになっています。

それはモデル植物であるシロイヌナズナにおいて、細胞内外の糖の出し入れをつかさどるトランスポーター(輸送体)の研究から発見されました。

シロイヌナズナに感染する病原細菌はべん毛をつかって、植物表面を泳ぎ這い回り、気孔をみつけたら、そこから植物の中に入っていきます。

ただし、これは植物細胞の中に入ることを意味しません。病原細菌が潜り込んだその先にある空間は細胞間隙とよばれる空間です。簡単に言えば、細胞と細胞の間の空間です。実は病原細菌はこの細胞間隙に存在する栄養を獲得して、増殖していくのです。

シロイヌナズナはこれを食い止めるために、細胞内外の糖の出し入れをつかさどるトランスポーターを活性化させ、細胞の隙間に存在する糖を、植物細胞内へとどんどん吸収していき、細胞間隙の糖の量を減少させます。

これは病原細菌にとっては、手にできる食料を減らされることを意味し、まさしく、植物は病原細菌に対して兵糧攻めを行っているわけです。

激しい「軍拡競争」は継続中

これ以外にも、植物には、高等生物に存在する自然免疫によく似た免疫システムを発達させたり、病原ウイルスの遺伝物質を分解したりする「武器」をたくさん持っています。

これに対して、病原体のほうもしたたかなもので、こうした「武器」の弱点を突く、新たな「武器」を開発しています。進化によって生み出される、植物と病原体との「軍拡競争」は、アメリカやロシアや中国が繰り広げている戦略兵器の開発競争を彷彿させるものがあります。

『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』ではこんな植物と病原微生物との戦いを、最新の研究成果をふんだんに織り込んで、その分子基盤に至るまで詳しく紹介しています。執筆者は、日本植物病理学会という植物の病気を取り扱う学術団体に属す、一線の研究者たちです。

この分野をよく知らない読者にも魅力が伝わるように基礎的なことから紹介していますが、新しい研究成果の解説では、最前線を実際に切り拓いている研究者の息づかいが伝わるような本になっていると思います。

病気を防ぐためにさまざまな工夫を凝らす植物たちの意外な側面や、感染を成功させるためにあの手この手を使う微生物たちの進化の不思議さを、きっと感じていただけることと思います。

植物たちの戦争