罠、兵糧攻め、自爆…いまこの瞬間も続く植物の「戦争」をご存じか

植物は「ボーっと生きて」なかった!
ブルーバックス編集部 プロフィール

どんな泥棒であっても、監視カメラに見つかってしまえばお終いですから、やり方は違えど侵入するために、この監視カメラに対して何らかの工作をせざるを得ません。つまり侵入を成功させるための鍵となる場所に罠を仕掛けて異常を感知することにより、一つの仕掛けで種類の違ういろんな敵をまとめて防御することができるのです。

哺乳動物では、無数の病原微生物に対して、個別の認識を可能とする特異的な抗体を作り出しますが、それとは対照的な戦略です。

おとなしそうな顔をした植物が、細胞の中にこんな罠を仕掛けているとは、まったく驚きです。

病原菌を巻き込んで細胞が心中する

「肉を斬らせて骨を断つ」という言葉があります。その意味するところは、自分も相当のダメージを受けるが、相手にそれ以上の決定的なダメージを与えるということで、つまり、捨て身の覚悟で戦うということです。

まさにこの言葉のような戦い方を植物が行うことがあります。それは過敏感反応(hypersensitive response)とよばれています。

これは一種の焦土戦術であり、病原体が侵入した部位において、抗菌物質の生産と同時に、侵入を受けた細胞、場合によってはその周りの細胞がみずから積極的に死んでいくというものです。

ある意味、病原体を巻き込みながら心中でもするような感じです。

過敏感反応
  過敏感反応は自身の細胞死も伴う強い防御反応です。病原菌は宿主植物に侵入した後に、栄養獲得のために吸器などの器官を形成しますが、過敏感反応が起こると吸器形成などの感染行動が封じられます。自らの細胞を殺すことで、被害を最小限に食い止める、まさに「肉を切らせて骨を断つ」巧妙な生き残り戦略です

植物はさまざまな病原体からの攻撃を日々受けているのですが、その植物が取るに足りない病原体であれば、細胞壁を強化したり、病原体を撃退する抗菌物質を分泌するなどの平時の防御戦略で対応できます。

しかし、病原体の中には、その植物を標的にしたオーダーメイドの感染機構を用意した、したたかものがいます。こうした強敵には、「過敏感反応」という伝家の宝刀を抜きます。

何しろ敵は、植物側の手の内を十分に知りつくしている相手です。そのような病原体の攻撃を受けたとき、植物はこの伝家の宝刀を躊躇なく抜き、みずからの細胞の死を伴う生体防御反応で敵を殲滅するのです。

この過敏感反応という現象は、イギリスの研究者であるハリー・マーシャル・ワードが、スズメノチャヒキ属植物におけるさび病の研究によってはじめて発見し、1902年に報告しています。

そして、1915年に米国の研究者であるエルビン・チャールズ・ステークマンによって、この現象が過敏感反応と名付けられました。

この現象は、非常に明瞭な変化を伴うので、早い時期に発見されていたのですが、実はその分子機構については、いまだわかっていないことだらけです。

hypersensitive responsePhoto by Getty Images

過敏感反応を起こすのは、多くの場合は強敵と遭遇したときと説明しましたが、どのようにして植物が強敵の存在を感知するかについては、現在少しずつ詳細がわかりつつあります。

その詳細な分子機構については、ブルーバックス『植物たちの戦争』にて詳しく解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。