地方の「人手不足」を乗り越える
かつて、東京、大阪、名古屋と豊岡が合わせて「鞄の4大産地」と言われたが、高齢化や後継者不足などで苦境に陥ったのは、どの産地も同様だった。
こうした中、国内産にこだわる日本の大手ビジネスバッグメーカーが、2000年代半ばから、比較的持ち堪えていた豊岡へ生産を大きくシフトしていく。しかし、要求される製品のクオリティは、従来からは考えられないほど高かった。
「特殊な生地で、中に綿も入っている。それを完璧に指定したサイズで持ってきてほしい、と言われて驚いたのを覚えています」
こう語るのは、ある大手メーカーのOEMを手がける(株)ハシモト社長の橋本和則さんだ。
「声がかかって、10数社が手を上げました。そうしたら、サンプルを見せてほしい、と。豊岡の鞄づくりの実力を、見極めたかったんだと思います」
最初にサンプルを持っていったのが、ハシモトだった。結果は1週間後、大口の受注という形でもたらされた。以来、同社の受注量はどんどん増え、厳しいオーダー条件にクオリティ面でも徹底的に鍛えられた。
現在、ハシモトは世界的デザイナーズブランドのバッグ製造も手がける。当時10数名だった従業員は、今では55名に増えた。

ベトナムに750名が働く工場を持ち、従業員数1000人を超える豊岡最大の鞄メーカー、(株)由利も、この国内大手メーカーのOEMを担う。社長の由利昇三郎さんはいう。
「私たちが取引を始めたのは、豊岡では最後発でした。クオリティへのこだわりは確かに厳しいですが、きちんと作ればきちんと評価される。おかげで、自社内の検品システムなどを徹底的に再構築することにもつながりました」
こうした動きと並行して由利さんが取り組みを進めたのが、人材採用と働き方の改革だ。
「企画職などで、若い人の採用はなかなか難しかった。そこで今は積極的に新卒採用を行っています」
中途採用では、若手の採用の難易度は極めて高かったという。ところが、思い切って費用をかけて新卒採用に切り替えると、採用ができるようになった。
「鞄が好きな人材を全国から求めているんです。それなりのコストはかかりますが、やるべきことをやれば、ちゃんと新卒は採れます」

新しい採用手法にも挑み始めた。
「短時間しか働けない方の積極活用に取り組んでいます。当初は、子育て中のお母さんなどに、数時間の軽作業でも戦力になってほしいと考えていたんです。ところがよくよく聞いてみると、総務や経理といった経験のある優秀な人材も少なくなかった。活かさないのはもったいない話ですから、いずれフルタイムでの採用にも結びつけたいと思っています」
近年、地方においては人手不足が顕在化しつつある。今後もその傾向は続くだろう。
「『日本全体が人手不足』というこれからの時代に必要なのは、たとえ地方の会社でも、働きたいと思ってもらえる魅力ある会社になれるよう、業務改革を推し進めることです。
私たちは、今年から有休消化率100%達成を目標にしています。そうすることで、外注化や効率化が進み、業務改革にもつながるはず。『働き方改革』を自分ごととして意識なければならないのは、むしろ都会の大企業よりも地方の中小企業なのではないでしょうか」
豊岡の元気な企業に共通しているのは、未来をしっかりと見据えていることだ。会社を、街を、将来どんな姿にしたいのか。そこから逆算すれば、今やるべきことが見えてくる。なにかとネガティブな言葉で語られがちな地方を変えるのは、そんなポジティブな目的意識なのだ。