街をあげて、次世代を育てる

スクールでの人材育成から地元定着、さらに地場産業活性化というサイクルが回り始めた現在は、豊岡の取り組みは全国的にも注目されるようになった。アルチザンスクールには自治体から企業まで、全国から視察が引きも切らない。

豊岡で作られた鞄だけを売っているショップも盛況だ。過去最高の売り上げを連続更新中で、ネットショップも好調だという。山﨑社長はいう。

「私はメーカーの経営者でもあるんですが、マーケットの変化を実感しているんです。バブルを経て、消費者は一流のものを見極める目をもつようになりました。でも、かといってブランドものを持ちたいのかというと、必ずしも皆がそうではない。価値を見出してもらえれば、ブランドに関係なく買っていただけると思います」

トヨオカ カバン アルチザン アベニューまでは豊岡駅から歩いて15分ほどかかる。これまでは車で来る人が多かったが、1年ほど前から、この場所を目指して駅から歩いてくる人が目に見えて増えたという。

豊岡の地場産業活性化の最大のポイントは、「街をあげて次代の人材を育成している」ことだ。豊岡の人々は、自分たちの地場産業への誇りに改めて立ち戻り、それを未来へつなぐ道を探った。そして堂々と、「鞄で生きていく」と決めたのだ。

各地の地場産業・伝統産業の継承でしばしば挙がる悩みが、「若者に興味を持ってもらえない」というもの。しかし、それは「興味がある若者を見つけられていない」だけかもしれない。豊岡には、アルチザンスクール入学者以外にも「鞄を仕事にしたい」という志を抱いてやってきた若者が少なくない。

100年以上の歴史を持つマスミ鞄囊(株)で働いているのは、28歳の依田一人さん。長野県出身で、芸術系の学校に学び、25歳のときに豊岡にやってきた。

「旅するための鞄に興味があったんです。インターネットで調べて、ここを見つけて。『自分のやりたい仕事がある』と思ったから、豊岡に来ました。鞄づくりは思った以上に奥が深いです」

もう一人、(株)由利で働く北口琢郎さんは30歳。福岡出身。23歳で新卒で入社して7年になる。

「あのバッグもこのバッグも、実はOEMで豊岡で作られていたんだ、と知って驚きました。豊岡ってすごい、と思いましたね。こういうところで作られているのか、と」

豊岡は新しいアクションにも挑み続けている。豊岡まちづくり(株)は、鞄のアルチザンスクールに加えて、2年半前から企業社員向けの「革小物(サイフ等)製作講座」もスタートさせた。鞄に続き、「財布も豊岡産」の定着を目指そうというものだ。鞄だけでなく財布の職人も全国的には減少している中、豊岡の鞄会社が財布も作れるようになれば、新たな雇用と収益が生まれる。

未来を見据えて、人づくりと情報発信、そして新たな事業への挑戦に正面から取り組めば、地方はまだまだ戦える。豊岡はそんな明るいモデルケースになりつつある。