商店街の空き店舗を、地場産業の拠点に

こうして2013年、豊岡の鞄メーカーの多くが加盟する兵庫県鞄工業組合を中心に、「鞄縫製者トレーニングセンター」が生まれた。ここでトレーニングを受けて各企業に入れば、即戦力になれる、という仕組みだ。由利社長は続ける。

「実は当初、『お金を払ってまで鞄づくりのトレーニングを受けたい人なんているのか』という議論があったんです。ところが、基礎を学びたい、というニーズはとても大きかった」

メーカーからは、「トレーニングセンターの卒業生を採用したい」という声が殺到した。公平性を担保するために、なんと採用にドラフト制度を取り入れたほどだったという。

「このセンターがうまくいって、わかったことがありました。それぞれの企業に委ねるだけではなく、人材育成は地域全体でやらないといけない、ということです」

由利の先代社長は、もうひとつ危機感を抱いていた。豊岡の鞄産業をどう盛り上げていくか、だ。

まずは、街の中心部にある商店街を「カバンストリート」と名付け、豊岡の鞄をアピールする場所を作れないかと考えた。組合や行政とも協力してイベントを企画するなど、さまざまな取り組みを進めていった。ところが、このカバンストリートの一角にあった大型レコード店が廃業することが決まる。一等地に大きな空き店舗が出てしまうのだ。

ここをなんとかうまく利用することができないか。そこで生まれたのが、「トヨオカ カバン アルチザン アベニュー」のアイディアだった。カバンストリートの真ん中に、豊岡鞄の拠点をつくる。さらに、そこには豊岡鞄を扱うショップだけではなく、職人育成専門校も併設することを企画したのである。

トヨオカ カバン アルチザン アベニュー内の鞄ショップ

先にも登場した、運営を担う豊岡まちづくり(株)の山﨑社長はいう。

「ショップもスクールも、まったく何もないところから立ち上がったんです。メーカーも、卸商も材料商も、協会や組合も、県も市も、いろんな人を巻き込んでプロジェクトが動いていきました。これはやはり由利の先代社長の人望とリーダーシップがあってこそ、だと思っています」

豊岡は、「鞄づくりの技術」にかけては日本一の自信があった。しかし、その強みをどう活かし、どう引き継いでゆくかという未来に向けた視点がなかった。ハードとソフトの両面が揃わなければ、生き残るのは難しい。

スクールのカリキュラムもゼロから本格的なものを構築した。年間の授業時間は1400時間を超える。受講生は、シンプルな作品からスタートし、複雑なオリジナル鞄がひとりで作れるようになるまで、1年間で20個以上の鞄を完成させる。

「ミシンの使い方、型紙づくりなど、何度も失敗しながら鞄づくりのプロセスをすべて学びます。開校は4月で、9月には市内のメーカーにインターンに入るんですが、やっぱり現場は刺激的なんでしょうね。インターンから帰ると、みなさん目の色が変わります。実際の現場はスピードが違いますから、『このままでは通用しない』と衝撃を受けるようです」