現実を食べて生きる。食べ物とひとの関わりとは?

忘れてしまいたいのに、忘れない味
平松 洋子 プロフィール

生きてから死ぬまで離れない

編み集めた作品がきっとすべてを語るだろうから、全27篇を列挙したい。

佐野洋子「天井からぶら下がっていたそば」
伊藤比呂美「歪ませないように」
旦敬介「初めてのフェイジョアーダ」
野呂邦暢「白桃」
林芙美子「風琴と魚の町」
町田康「半ラーメンへの憎悪」
深沢七郎「カタギの舌で味わう」
鏑木清方「胡瓜」
江國香織「すいかの匂い」
野見山暁治「チャカホイと軍人と女──〝林芙美子〟」
閒村俊一「ぞろり──食にまつはる十一句」
堀江敏幸「珈琲と馬鈴薯」
中島京子「妻が椎茸だったころ」
益田ミリ「会社では、なんだか宙ぶらりん」
吉村昭「白い御飯」
山崎佳代子「ジェネリカの青い実」
友川カズキ「眼と舌の転戦」
平松洋子「黒曜石」
石牟礼道子「椿の海の記」第八章 雪河原より
美濃部美津子「菊正をこよなく愛した」
南伸坊「うな重はコマル」
高橋久美子「仲間」
川上弘美「少し曇った朝」
山田太一「食べることの羞恥」
石垣りん「鬼の食事」
吉本隆明「梅色吐息」
ハルノ宵子「最後の晩餐」

小説も詩も俳句もエッセイも漫画も語り下ろしもある。しかし、それぞれの作品は、「食べる」ことをつうじて「生きる」という一点に向かっている。

 

うまい/まずいの話ではない。食べなければ生きてゆけず、だから生きるために食べる。泣き笑いの道のりの中途で浮上する折々のおこない、なまなましい感情、思考の運動。

矛盾も逡巡も後悔もたっぷりとふくんだ種々雑多な食べ物を、咀嚼し、飲み込み、胃のなかへ送りこみながら、だれもが生きる、生活を営んでいる。

そのありさまを言葉によって描きだそうとする27の物語である。

「忘れられない」のではなく「忘れない」。強い言葉だなと、あらためて思う。

味は五感を根底から揺さぶる、感情や思考に刺激を送りこむ。だから、忘れない。

忘れてしまいたいのに、忘れてもいいのに、忘れない味とそれにまつわる情景がある。食べ物は、生きてから死ぬまで人間からかたときも離れない。

人間がしがみついているのだろうか。