「こんまりメソッド」にセラピー効果はあるのか...精神科医の見解

「ときめき」がもたらすメリット
丸井 友泰 プロフィール

片付けを阻害する心理

人は誰しも物を溜め込む性質がある、と先ほど述べたが、それは片づけを阻害するいくつかの心理が影響している。

たとえば、授かり効果(物を所有すると実際よりも価値を高く感じ、手放したくないと考える)という心理的傾向や、現状維持バイアスといって、人には変化よりも現状を維持する心理的傾向があり、物を手放す際にはこれらに逆らう必要がある。

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また、疾患レベルの話ではないが、モーニングワーク(mourning work:喪の作業)中に、思い出の品をこんまりメソッドに基づいて片づけるのは控えた方がよい。モーニングワークとは、近親者など愛着の対象を失った後の反応や、それに対処していく過程のことをいう。ボウルビィによると、モーニングワークの心理的過程は以下の4段階にまとめらる。

1. 麻痺/無感覚(喪失により激しい衝撃を受け、ショック状態に陥る)

2. 否認・抗議(失った事実を認めようとせず、失った対象がいるようにふるまう)

3. 絶望・失意(激しい失意と抑うつに支配される)

4. 離脱・再建(感情的におだやかになり、失った事実を受け入れ、現実に向き合い、立ち直っていく)

この心理的過程は、努力して悲しみを治すのではなく、悲しみつくすことで自然と喪失を乗り越える過程である。一般的に、この過程は3〜6ヶ月かかると言われている。この過程を正しく踏まないと、悲しみが長期化する場合や、うつ病などの精神疾患を発症する場合もある

Netflixの番組の中でも、亡くなった旦那さんの衣服を捨てようとしている女性がいたが、彼女は旦那さんが亡くなってから半年後だったことから、本人の中である程度の心の整理がついていたのかもしれない。

ただ、急ぐのは禁物だ。「早く悲しみを乗り越えたい。そうだ、亡くなった人との思い出の品を整理しよう」と考え、こんまりメソッドを不適切なタイミングで実践すると、モーニングワークの過程が滞ってしまう可能性がある。

少なくとも、悲しみ尽くし、現実に向き合えるようになってからメソッドを実践した方がいいだろう(誤解がないように言っておくが、こんまりメソッドに、大切な人との死別を乗り越える目的でメソッドを実践するように勧める記載は一切ない)。

以上の例外を除けば、こんまりメソッドには心理学的なメリットは大いにあり得る。今後さらなる検証が行われ、心理学的な有効性が裏付けされていくことを期待したい。

 

最後に、月並みの私見で恐縮だが、メソッドの自分自身に合った部分のみを取り入れることも悪くはないだろう。私も片づけをする際、所有物を実際に手に触れてときめくかどうかは、日頃から実践している。

また、物を購入する際も、実際にじっくり手に触れて(買う前の商品であるため、迷惑にならない範囲で)、心からときめきを感じるかどうか判断し、それを手に入れた場合の理想の生活を具体的に想像し、無駄な買い物をしないように気をつけることができている。

こんまりメソッドを厳格に実践しているわけではないが、優れた片づけ方法であるこのメソッドから、自身が持つ想像力を大事にし、物を大切にすることの重要性を改めて教わった気がしている。