ベッドタウンも侵食中の「所有者不明空き家」がもたらす巨大コスト

住まいにも「終活」が必要です
野澤 千絵 プロフィール

ベッドタウンにも、所有者不明空き家が

確かに、大阪市の難波など、古くから市街化した街では、何代もの相続が発生した土地や建物が多いため、相続未登記や共有状態が続くと、所有者の特定や連絡先の探索が難しくなりそうなことは容易に想像できる。

 

しかし、全国的に空き家問題を調査していて、筆者が懸念しているのは、相続がせいぜい親世代から子世代へと発生している程度の、高度経済成長期に東京へのベッドタウンとして市街化した郊外住宅地でも、既に所有者不明空き家問題が侵食し始めているという点だ。

少し具体例を紹介しよう。

この郊外住宅地にある空き家は、Aさん(被相続人)が高度経済成長期の1970年代に建てた家だが、妻に先立たれた後、Aさんも他界(約20年前)し、空き家となった。

Aさんには、子供がおらず、両親も他界していたことから、相続権はAさんの兄弟へ移った。しかし、Aさんの住んでいた空き家について、兄弟間で遺産分割協議や相続登記がなされることはなく、その後、時間の経過とともに、Aさんの兄弟もみんな他界。Aさんの空き家の相続権は、代襲相続が発生し、A氏の甥・姪へと移っていった。

近年、異常気象が続いたこともあり、この空き家は一気に荒廃が進んだ。屋根や外壁の一部が吹き飛び、建材が飛び出し、家を支える柱も腐り始めるなど、周辺にも危険な状態となり、市民からの通報も相次いだ。

そんなことから、自治体は所有者を探索し、その時点で法定相続人となっていた甥や姪に対して、この空き家の適正管理をするように連絡した。

Aさんの甥や姪の中には、既に相続放棄の手続きをしている人もいたが、自治体からの連絡で初めて、おじの家の相続人であることを知ったという人もいた。

そして、自治体からの連絡を受けたAさんの甥や姪も、遊びに行った記憶すらないおじの空き家に対して、税金や管理コストの負担を負いたくないし、短期間で売却できる見込みが低いということで、相次いで、相続放棄の手続き(*2)を行った。

その結果、この空き家は、相続人が一人もいない状態となった――。

なお、この事例は、たまたま元所有者に子供がいなかったケースだが、子供がいる場合でも、子世代が相続放棄後、相続権がまわってきた親戚も相続放棄し、最終的に相続人が一人もいない状態となったケースも見られる。

図1 Aさんの相続関係
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一般的に、こうした所有者不明空き家は、相続放棄者に対して民法上の管理義務は残るものの、その法解釈も明確ではない。

そのため、結局は、このまま塩漬け状態で放置され続け、そのうち、地域に危険を及ぼす状態になり、最終的に、自治体が費用の回収見込みがなくても、税金で解体せざるを得ない事態となっていく。

つまり、所有者不明空き家問題を増やし、放置しておくことは、地域の住環境を悪化させるだけでなく、これらの対応コストとして、将来世代の税負担を増やすことになる

これ以上、所有者不明空き家を生み出さないためには、今、家を持っている全ての人が、自分たちの家を将来、どうするのかについて考え、備え、行動すること、いわば、住まいにも「終活」が必要不可欠になっていると言えよう。

ゴーストタウン化で手遅れになったエリア

とはいっても、「相続が発生した後に、ゆっくり考えればよいのでは?」「相続のことを家族の間で話題に出しづらい……」という方も多いだろう。

しかし、今後、人口だけでなく、世帯数も減少する日本で、持ち家に対して、これまでと同じ感覚でいることは、非常に危険な時代になっていることを認識すべきである。

実際に、首都圏の郊外住宅地の中にも、空き家だらけのゴーストタウンと化し(11区画のうち1区画しか人が住んでいない)、住まいを終活しようにも既に手遅れ、という事態に陥っているエリアがある。

この郊外住宅地自体は、建て替えや新築の物件もあり、民間市場の流通性もあるが、そのゴーストタウン化エリアは、所有者が空き家やその跡地を売却したくても、空き家に囲まれながら、新たに住もうという気にはならず、売却できる見込みがほぼない状況に陥っている。

仮に、空き家を解体して、隣地に無償や低額で譲渡し、駐車場や庭として使ってもらおうにも、その利用者となりうる隣地自体も空き家になってしまったため、そこで住み続けようという人がいない中では不可能だ。

各空き家を解体して、その土地を集めて一団のまとまりのある土地にできたとすれば、何らかの土地利用のニーズが生まれる可能性があるとしても、所有者や全ての相続人の探索・調整作業に費用や労力を割こうまでする民間事業者が出てくるとは到底思えない。

このように、個々の敷地の空き家化が進むと、エリア全体の価値を下げるだけでなく、個々の所有者が住まいを終活することすら難しくさせてしまうリスクがあることに目を向ける必要がある。