一気に不安定化した金正恩と半島の運命を数パターン予想してみる

ベトナム戦争後のインドシナの命運と…
大原 浩 プロフィール

ロシアも中国も北朝鮮と距離を置いている

実際、経済制裁は北朝鮮にボディー・ブローのように効いてきている。

金正恩氏が、会談の中で「経済制裁解除」に強くこだわったことで、その効果の程が明らかになってしまった。ボクサーが必要以上にパンチを受けないようにかばう箇所は「弱点」だというのと同じことである。

トランプ大統領は「しめしめ」とほくそ笑んでいるに違いない。米国も、できれば自国民の犠牲を伴う戦争などしたくない。だから、「経済制裁」が効果的だと分かれば徹底的にそちらに集中する。金氏が「解除」を要求すればするほど、さらにぎゅうぎゅう締めあげることになる。

もちろん、共産主義中国やロシアだけでは無く韓国も制裁破りをしているとされるのは大きな問題だが、それにも関わらず経済制裁は効いているのである。

例えば、北朝鮮から共産圏を中心と諸外国への出稼ぎ労働者は貴重な外貨をもたらすが、労働者は厳重な監視下に置かれ、賃金のほとんどを金政権が吸い上げる。

しかし、この出稼ぎ労働者も経済制裁強化の中で、例えばロシア極東では最盛期の10分の1以下に激減したとされる。

さらには、FinCENと呼ばれる米国財務省傘下の機関が取り締まる世界金融市場では、偽名口座なども含む制裁指定口座が、ほとんどすべて摘発され、北朝鮮は外貨を中心とした資金繰りに相当困窮しているはずである。

そもそも、建国の父と呼ばれる金日成はソ連の後押しで北朝鮮の指導者になったので、ソ連の番犬であったといえる。しかし、朝鮮戦争の時に、「米ソ対決」を避けたかったソ連とは疎遠になり共産主義中国の傘下に入った。

金正日の時代も中国の番犬を続けていたのだが、金正恩の代になってから中国の言うことを聞かなくなり、米国にすり寄った。

北朝鮮の指導者が米国大統領と直接会談したのは、大きな功績だとされている。しかし、もとの飼い主である中国の頭ごなしに、米国と直接交渉をすれば、今後中国の助力に多くは期待できず、戦略的には不利な立場に立つのだ。ましてや中国は米国との貿易戦争の真っ最中という微妙な立場にいる。

少なくとも、本記事執筆時点で、共産主義中国は「北朝鮮支援」の明確な意思表示や「中朝会談」の予定を発表していない。

 

「臨時政府」には注目すべき

さらには、不明な部分が多いが、米朝会談にタイミングを合わせて、金正男氏の長男をかくまっているとする団体が「臨時政府」の樹立を宣言した。

実態はまったくもって不明だが、「暗殺された金正男氏の長男をかくまっている」とし、「臨時政府の樹立」まで宣言する背景には「大きな力」が控えていると考えるのは自然であろう。

諜報戦争の内実を把握するのは困難だが、この「臨時政府」ほど米国にとって便利な存在は無い。

もちろん、現在北朝鮮国内を把握している金正恩氏が米国にひざまずくのがベストシナリオだが、あくまで米国に反抗し続けたり、クーデタなどの不穏な動きがあったときに「臨時政府」というオプションは都合が良い。

実際、さんざん米朝首脳会談の予定される成果を国内で宣伝しながら、手ぶらで帰った金正恩氏に対する、北朝鮮幹部たちの視線は厳しいはずだ。

特に、長年にわたって金王朝の中枢にいた叔父の張成沢氏を2013年に処刑したことが、今になってブーメランとなって跳ね返ってきている。処刑方法の残虐さが注目を浴びたが、これにより、北朝鮮幹部の誰もが処刑の例外でないことが明らかになった。

明日、自分が処刑されるかもしれないのなら、先にクーデタを起こして、その「処刑人」を排除したほうが安全である。金正恩氏は、自らの愚かさを後悔しながら眠れぬ日々を過ごしているはずだ。

また、会談後に行われた韓国との軍事演習の縮小も、単なる予算縮小や北朝鮮への気遣い以上の意味があるはずだ。

日韓での「レーダー照射問題」の真実を米軍は把握しているはずである。だから、米国の韓国軍への信頼はほぼゼロと言ってよい。

軍事機密が韓国軍を通じて北朝鮮、さらには共産主義中国に流れるのはなんとしてでも避けたいから、「韓国軍はずし」には、今回は絶好のチャンスである。

関ケ原の戦いにおける小早川秀秋のような裏切り者になる可能性のある「味方」を内部に抱えるよりも、米軍単独あるいは日米共同作戦を行った方がはるかに効果的である。

その意味で、今回の「韓国軍はずし」は、米国がいよいよ朝鮮半島有事の準備を始めたサインとも言える。