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孫への虐待容疑で突然逮捕...無実を訴える祖母の悲痛

揺さぶられっこ事件を問う⑥

痛ましい虐待事件が相次ぐ一方で、2018年から、「揺さぶられっこ症候群(SBS)を根拠に逮捕・起訴された事例で、いくつかの無罪判決が下されていることをご存じだろうか。

赤ちゃんの頭部に出血などが見られた場合(SBS)、虐待の疑いが高いと判断され、事件として扱われるのが通例となってきたが、世界的に「SBSには医学的根拠が薄い」という声が高まっており、日本でも「それが本当に虐待によって生じたものかどうか」について、慎重な判断が求められるようになっている。

ジャーナリストの柳原三佳氏は、近年、SBSを根拠として起訴されたが冤罪の疑いのある事件を集中的に取材。その問題点と、無実を訴える家族の悲痛な叫びをまとめた『私は虐待していない ~検証 揺さぶられっ子症候群』を発表したが、いまなお冤罪の疑いのあるケースが数多くみられるという。

孫に対する虐待の罪に問われたひとりの女性(当時67歳)が、無罪を訴えながらも5年6カ月の実刑判決を受けたケースから、「揺さぶられっこ症候群」の問題を浮き彫りにする――。

突然「被疑者」になる

我が子や孫を「強く揺さぶって虐待」したとして、ある日、保護者が突然逮捕される……、そんな報道を目にすることがたびたびあります。こうした報道に触れるたび、『生まれて間もない我が子に手を上げるなんて、なんてひどい親なんだろう!』と怒りを覚えている人も多いのではないでしょうか。

私も、そんな思いを抱いていた一人でした。

しかし、その考えは、当事者、つまり、赤ちゃんが「揺さぶられっこ症候群」と診断され、虐待を疑われた保護者たちへの取材をきっかけに大きく変わりました。

 

大切な我が子が、突然の事故や病気で脳に重い障害を負ってしまったら……。親としては身を切られるほど辛く、悲しく、先の見えない不安にさいなまれ、どん底に突き落とされた気持ちになることでしょう。そして、子どもを守ってやれなかった自分を責めることでしょう。にもかかわらず、ふと気づけば、親である自分自身が「被疑者」になっている、そんなことが実際に起こっているのです。

恐ろしいことですが、今の日本では、日々の子育てのなかで、ほんのわずか目を離した瞬間にけがをしてしまった、また、お昼寝中に突然容体が急変したのだといくら説明しても、まず信じてはもらえません。

医師、警察、児童相談所が、赤ちゃんの頭部に出血などの徴候を確認すると、その子のママやパパ、祖父母たちは、一方的に「虐待した」と決めつけられ、赤ちゃんと引き離されたり、罪に問われたりする――そういう現実があるのです。

揺さぶられっ子症候群、英語では「Shaken Baby Syndrome(シェイクン・ベイビー・シンドローム)」と呼ばれているこの症状は、頭文字をとって、世界的には「SBS」と呼ばれています。

赤ちゃんの頭部に、

(1)硬膜下血腫/頭蓋骨の内側にある硬膜内で出血し、血の固まりが脳を圧迫している状態
(2)眼底出血(網膜出血)/網膜の血管が破れて出血している状態
(3)脳浮腫/頭部外傷や腫瘍によって、脳の組織内に水分が異常にたまった状態

という3つの症状があれば、SBSの可能性が高いと診断されるようです。

病院に搬送された赤ちゃんの頭部に上記の症状がみられ、「揺さぶられっ子症候群」の疑いがあると診断した医師は、念のため児童相談所と警察に通報します。

それを受けた児童相談所は、まず、けがをしている子どもはもちろんのこと、場合によってはその兄弟姉妹にもさらなる虐待被害が及ばぬよう、「保護」という目的で子どもを親から隔離します(この処分を「親子分離」といいます)。

そして警察は、傷害事件(被害児が死亡した場合は殺人事件)の疑いも視野に入れて、赤ちゃんと関わっていた保護者や関係者に対して、事情聴取や家宅捜索による物品の押収などを始めるのです。

親子分離されてしまうと、自分の子どもと一緒に暮らすことはできず、看病することも許されません。ときには、その期間が一年以上に及ぶことも珍しくありません。それでも、子どもが児童相談所から無事に返されれば、まだましなほうです。

なかには、事故や病気の可能性が高いと主張しているにもかかわらず、強引に逮捕・勾留され、検察庁に起訴され、刑事裁判が始まり、有罪判決を受けて刑務所に送られた親たちもいます。

2017年10月、大阪地裁で孫に対する虐待の罪に問われたひとりの女性(当時67歳)が、一貫して無実を訴えながらも、5年6カ月の実刑判決を受けました。女性はすぐさま控訴し、この事件は、現在も大阪高裁で刑事裁判が続いています。

赤ちゃんの脳に出血などの異常が見つかっているのは事実であるだけに、彼女が話すことを、単なる「言い訳」とか「自己保身」だと受け取る人もいるかもしれません。

しかし、「虐待した」と疑われるその直前まで、この赤ちゃんの身体に傷らしいものは何もなく、両親をはじめ保護者から大切に育てられていたことも事実です。
いったい、彼女に何が起こったのでしょうか……。インタビューを行いました。

(*高裁判決が下されるまでは、実名報道を控え、仮名で報じます)