ピエール瀧「薬物問題」の一考察〜日本は世界から10年遅れている…

いまだ根深い2つの誤解
原田 隆之 プロフィール

深澤氏の発言への反論として、ネット上に上がっていた声のなかには、「それは西欧諸国だけの話であって、アジアは違う」「中国では死刑になることすらあるので、日本はなまやさしいほうだ」などの意見があった。

これらは大きな誤解に基づく意見である。たしかに、薬物に対する政策転換は、ヨーロッパから始まったものであるが、今や世界中の多くの国々にも波及している。

 

私は今年1月にタイの薬物統制委員会を訪れたが、そこでは2016年の国連決議を受けて、薬物政策を大きく転換していることを伺った。実際、タイでは薬物使用の非刑罰化政策が進んでいる。

「薬物戦争」を宣言し、大々的な反薬物キャンペーンを張っているフィリピンですら、薬物使用だけで刑務所に入れられることはない。

薬物使用は、司法当局ではなく、保健省の管轄である。大多数は社会内で治療サービスを受け、重症者だけが保健省管轄のリハビリセンターに収容されて治療を受けている。

また、中国で死刑になることもあるのは、薬物使用ではなく薬物密輸などの罪である。

どの国も薬物使用と薬物密造・密売などは厳密に区別をしており、後者に対しては、厳しい罰が加えられる。これは西洋諸国でも同じであり、この両者を混同してはならない。

もう1つよくある誤解は、非犯罪化(多くは非刑罰化)と合法化を混同してしまうことである。大麻については、合法化する国がいくつかある。

しかし、ほとんどの国でなされているのは、非刑罰化である。国連条約でも違法薬物は大麻も含め、法律で規制すべきであるとされているし、その使用は犯罪であることには変わりがない。

国連決議が求めているのは、刑罰に効果がない以上、刑罰に代わって治療などの方法で対処しようと言っているにすぎない。

わが国は世界に誇れるほど薬物使用の少ない国である。ただ、その一方で、薬物使用者をヒステリックに叩くだけ叩いて、社会から抹殺しようとしている国でもある。

日本の刑務所職員が好んで用いる言葉に次のような言葉がある。これは網走刑務所前にある石碑にも刻まれた言葉である。

私の手は厳しいけれど、わたしの心は愛に満ちている

私はこの言葉をもう一度噛みしめたいと思う。

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