ピエール瀧「薬物問題」の一考察〜日本は世界から10年遅れている…

いまだ根深い2つの誤解
原田 隆之 プロフィール

世界の薬物政策

それでは、世界の薬物政策がどのようになっているのか、その現状を見てみたい。

日本ではほとんど話題にもならなかったが、2016年に国連総会は、薬物問題に対する特別セッションを開いた。これは前回のセッションから実に10年ぶりのことであった。

10年前、世界は「薬物戦争」を旗印に、薬物犯罪を徹底的に取り締まり、厳罰で対処することを決めた。まさに今の日本はその延長線上にある。

しかし、その結果、薬物問題は収まりを見せるどころか、よくて横ばいという状況であり、厳罰化に伴って刑務所がパンクする国もあちこちに現れた。

さらに、その後の研究の積み重ねによって、次の2つの事実が明確になってきた。

1 薬物依存は「脳の病気」である
2 処罰には再犯抑止効果がなく、治療にこそ効果がある
 

このような流れを受けて、2016年の国連総会は、10年前とは打って変わり、次のような決議を取りまとめるに至った。

1 薬物プログラム、対策、政策の文脈において、すべての個人の人権と尊厳の保護と尊重を促進すること
2 すべての人々、家族、社会の健康、福祉、幸福を促進し、効果的、包括的、科学的なエビデンスに基づく治療、予防、ケア、回復、リハビリテーション、社会への再統合に向けての努力をすること

ここで謳われているのは、第1には薬物使用者の人権の尊重である。

薬物使用が犯罪であれば、それは法に従って処罰されることは法治国家としては当然であるが、ことさらに辱めたり、苦痛を与えたりすることなどは、決して許されるべきものではない。

また、「効果的、包括的、科学的なエビデンスに基づく」バランスの取れたアプローチを取るように求めている。

これは、それまでの処罰一辺倒だったアプローチから、予防、治療、教育、福祉などのヒューマンサービスを重視する公衆衛生的なアプローチへの大転換である。

一方わが国では

これが世界の潮流であり、多くの国がこうした方向に向けて、法整備やサービスの拡充などを行っている。

日本が今までのように、薬物使用者を吊し上げて社会的な制裁を加え続け、治療や福祉の拡充をせず、ただ単に刑務所に放り込むだけで社会から排除するような対処を続けるのであれば、それは国連決議違反である。

そして、それは世界的に見ると10年以上遅れた時代錯誤の対処である。

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