ピエール瀧「薬物問題」の一考察〜日本は世界から10年遅れている…

いまだ根深い2つの誤解
原田 隆之 プロフィール

メディアの攻撃

しかし、私がそれ以上に問題視しているのは、もう1つの報道姿勢のほうである。すなわち、先に「一億総叩き」と形容した容疑者への洪水のような攻撃についてである。

番組差し止めに対して多様な意見があったのとは対照的に、こちらは右を見ても左を見ても同じように攻撃的な意見ばかりで、ほとんど異論がないのが特徴だ。

主要なテレビ各局・新聞各紙は軒並み「大事件」のように報道し、なかには父親にインタビューしている局もあった。ピエール瀧さんは、51歳だそうだが、その父親を引っ張り出して、何を聞きたいというのだろうか。

また、インターネットの「J-CASTニュース」では、ライターが「ピエール瀧は芸能界を永久追放すべきだ」と主張している(少し日本語が下手なので添削すると、「ピエール瀧芸能界から……」というのが、正しい日本語だろう)。

そして、その理由として「本人を罰するというだけでなく、汚染・中毒が若者ら一般社会に広まるのを防ぎ、犯罪組織の資金源になっていることをつぶすためだ。交通事故を起こしたのとはわけが違う」からだと述べている(この日本語も添削したくなるところが多々ある)。

 

法律の世界では、一人を罰することによって他の多くの人に犯罪を思いとどまらせようとすることを「一般予防」という。しかし、その効果はさほど大きいものではない。

もし、それを主張するならば、その実際の抑制効果のエビデンスと、本人に及ぼすネガティブな効果を示して、そのバランスを考えて主張すべきである。

なんの根拠もなく、ヒステリックに「永久追放すべきだ」などと主張することは、「見せしめにしろ」と言っているのと同じで、時代遅れも甚だしい野蛮な意見でしかない。

このような総叩きのなかで、1人異色のコメントをしていたのが、獨協大学の深澤真紀特任教授である。

彼女は、「今は薬物に対して厳罰主義というより治療だ」と述べ、継いで「世界中で言われていることは非犯罪化・治療していくんだということ」「日本は法律が50年以上変わってないので、治療の現場が全く変わっていく中で、『この法律でいいのか』というのは世界中で論議されているんですね」と語っていた。

この発言を聞いて、私は「おやっ、テレビのコメンテーターがこのような発言をするとは、世の中も少しずつ変わってきてるのか」と思ったのだが、どうもそうではないようだ。

夕方のネットニュースでは、「深澤氏、ピエール瀧容疑者を擁護し批判殺到」という記事がアップされていた。やはり彼女の意見は、「異端」だととらえられたようで、世の中はそう簡単には変わっていないのかもしれない。

とはいえ、ツイッターなどネット掲示板などで、どれだけ彼女が叩かれているのか調べてみたが、実際は「批判殺到」というにはほど遠い現状であった。

もちろん、批判の声はいくつかあったが、擁護する意見もあった。この状況を一番的確に表現すると、批判殺到でも擁護でもなく「スルー」、つまりほとんど関心を持たれていないというのが正しい状況であった。

そして、もう1つ明らかに言えるのは、「批判殺到」などという大げさな見出しで記事を書いたライターが、深澤氏の発言を快く思っていないということである。そのため、このようなミスリーディングな記事を書いたのであろう。

叩くだけたたいてあとは無関心、これがわが国の現状である。

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