カラスといえば「賢い」鳥として知られている。とはいえ、相手は鳥だ。イソップ物語に、水瓶の水を飲むために石を投げ込んで水位を上げるカラスが出てくるが、いくらなんでもあれは作り話だろう……と思った方。実験条件下ではあるが、カラスは本当に石を放り込んで水位を上げる。
カラスの知能を紹介するエピソードは枚挙にいとまがない。
最近は慶應大学の樋口広芳教授が自分で水栓をひねって開けるカラスを観察し、報告している。レバー式の水栓を開けて水を飲むカラスは記録があるが、ひねって回すタイプ、というのは初めてだ。また、このカラスは水を飲みたい時と水浴びしたい時で水量を変えるという、大した知恵も見せた。つまり、「回す努力量に応じて水量が変化する」という関係性を見抜いた、ということである。
カラスがクルミを道路に置いて車に轢かせて割るのも有名だ。これも車が徐行する場所を選んだり、赤信号で停車中の車のタイヤの前に置いて来たりと、知恵の回るところを見せている。
ただし、こういった技は全ての個体ができるというものではないし、種類によっても違う。
日本にはハシブトガラス、ハシボソガラスという2種のカラスが繁殖しているが、水道の栓を回すのも、クルミを轢かせるのも、ハシボソガラスの方である。ハシブトガラスはそういう面倒なことをやりたがらない。また、クルミを轢かせるのは非常に難易度が高いらしく、親がやっていても子供が覚えるとは限らない。自分が車に轢かれる危険を考えると、難易度の割にメリットが少ないとも言われている。
カラスの知能を世界に知らしめたのは、ニューカレドニア島に住むカレドニアガラスだ。このカラスは野生状態で道具を作り、それを使って餌を採る。道具には何種類かあるが、枝を曲げたり、葉の一部を切り取ったりと、ちゃんと加工して使いやすくしたものだ。
例えば、朽木の穴の中にカミキリムシの幼虫がいる場合、カラスは棒状の道具をくわえ、穴に差し入れて道具を動かす。そして絶妙な力加減で幼虫をくすぐって怒らせ、棒の先に噛みつかせて釣り上げるのだ。また、出来のいい道具は木の上に置いておき、繰り返し使うことも知られている。
道具を使う鳥は他にもいる。キツツキフィンチはサボテンのトゲで樹皮の隙間に潜んだ昆虫をつつき出すし、エジプトハゲワシは石を落としてダチョウの卵を割って食べる。だが、野生状態で、自分で道具を作って使うのは、カレドニアガラスだけだ。
この能力は動物全体を見渡しても卓越している。最初、道具を使うのは人間だけの特徴と考えられていた。だが、動物による道具使用が知られるようになると、道具を作って使うのが人間の特徴ということになった。
ところが、チンパンジーも道具を作ることがわかった。枝を噛んで柔らかくしてから蟻塚に突っ込み、アリを釣って舐めたりするのだ。かくして、道具を使って道具を作る、つまり“メタ道具”の概念があるのが人間の特徴ということになった。どうも人間は自分だけの特権を残しておきたくて仕方ないようである。
とはいえ、人間にごく近縁なチンパンジーが道具を作ることは、まだ理解しやすいかもしれない。だが、カラスはいきなり、チンパンジーと並ぶ能力を発揮したのである。