孤高の格闘家・青木真也が説く「勝率1%でも勝つ方法」

怖さを克服して「動く」
石川 香苗子 プロフィール

「勝利の1回」を引き寄せる究極の根くらべ

ーー 勝ちを引き寄せるための思考法についても教えてください。たとえば08年に行われた、J.Z.カルバン(HERO'S 2006・2007ミドル級世界王者)との試合では、圧倒的不利とされた事前予想をひっくり返して勝利しましたが、この試合の前に青木さんが「100回やったら、99回俺が負ける、だけどもしかしたら1回勝つかもしれない。その1回を最初に持ってくる」と話していたのが印象に残っています。

どうしたらその「勝利の1回」を最初に持ってくることができるのでしょうか。

青木 僕はアスリートである前に、勝負師です。勝負事をさせたら誰にも負けないという自負を持っています。どれだけ分が悪い試合でも、99回やって1回勝てる勝負なら、やる。

その1回を最初に持ってくるには、自分の方が弱くても、圧倒的に不利でも「可能性がある」って思いこむしかない。そういう根拠のない自信をずっと持ち続けることです。

それから、弱いからこそ博打は打たない。これがとても重要。相手の方が強いと思い込むと、とかく「奇跡」とか「偶然」に頼って勝つしかないとなりがちなんですが、これは間違いです。勝負事で博打を打つときは、負けるときだし、勝負を捨てることを意味します。「捨て身の攻撃」って印象には残りやすいんですが、印象に残るだけで、それで勝てる試合って、皆無に等しい。

相手がどれだけ強くても、我慢して我慢して、何があっても我慢する。博打を打たずに、我慢する。勝負から逃げさえしなければ、相手も人間だから心が折れる。「なんなんだ、こいつは!」って思わせたらこっちのもの。勝てます。

逆の場合もしかり。相手に「自分がいかに強いか」と思いこませて、博打を打たせたら勝ちです。根くらべですね。

 

ーー青木さんは自分の弱点をどのように認識し、把握していらっしゃるのですか。

青木 戦績の数字を見ることです。海外の格闘技のサイトは本当によくできていて、ノックアウト率をはじめとする各選手のデータが全て出ています。もちろん自分だけでなく、相手の成績もです。対戦相手の戦績や細かいデータをみていると、「あいつは一見、ノックアウトパンチャーのイメージがあるけれど、実はノックアウトしていないんだな」といったことが頭の中で整理できる。

格闘技って、勝ち方や印象の方が見ている人の記憶に強く残るものなので、それを一旦リセットして、冷静に数字を見て、傾向と対策を考えることで、相手にどういう戦略で挑めばいいか見えてくる。全部数字を出してみるとわかりやすくなると思います。

―― 自分を「だます」という話が出てきましたが、自分より格上の相手と対戦したり、持っているスキルより少し上のオーダーが来たらどうしているんですか? ビジネスシーンにおいても、「これは自分の能力を超えているよな」と思うような依頼や指示があったりしますが……。

青木 もう「はったり」ですね。それしかないです。何かを依頼する側になったときに思うんですけど、「やったことないです」って断られたり、「できるかどうかわかりません」って言われたら、その人には次から絶対頼まなくなるんですよね。できても、できなくても、「やります!」って気合いを見せてくれた方が、絶対一緒に仕事をしたくなるんですよ。これ、割と真理だと思うんで、僕はそうするようにしています。

たとえば格闘技の試合のオファーでも、勝つ可能性が0%のオファーは、主宰者も持ってきません。少なくとも1%は勝つ確率があるから、オファーをするわけです。であれば、さっきも言ったような「勝率1%で勝つ方法」を考えるしかないと腹を括って、オファーを受ける。

失敗したらどうしようって不安で、毎回ワキ汗かいちゃうみたいな人は、一度大恥をかいたら強いですよ。恥をかくってこういうものか、この程度のものなのか、と分かると、そこからめちゃくちゃ強くなる。

僕が常々言ってるのは、さいたまスーパーアリーナの花道を、パンツ脱いで歩けたやつが一番強い、ということ。それぐらいのメンタルを持っていれば、負けることへの恐怖心もなくなります。

ベストバウトは、大負けした試合

僕のベストバウトは、大負けに負けて、「脱糞疑惑」まで出た、2010年大みそかの長島☆自演乙☆雄一郎さんと対戦した試合です。

(註:キックボクサーの長島と総合格闘家・青木の対戦ということで注目を集めたこの一戦。1ラウンドはK-1ルールで、2ラウンドは総合格闘技ルールで戦うという変則ルールで行われ、2ラウンドまで青木が耐えれば青木の勝利は確実とされていたが、2ラウンド開始早々に長島がKO勝ちを収めた。青木は敗北の瞬間に脱糞したのではないかという疑惑を持たれ、その払しょくに時間を要した)

あれほどファイターとして恥ずかしい試合はありません。1ラウンド目は苦手なルールだからって、反則すれすれのところで逃げきったのに、得意なルールの2ラウンド目に入った瞬間、ばかすか思いっきりぶん殴られて負けた。あんなに恥ずかしい姿を世の中の大勢の人に見られて、叩かれもした。でも、あれがあるから、僕は強くなった。あれ以上の恥はないですから。

だから、一回”死んでる”と強いですよね。失敗が怖いという人は、まだ恥ずかしい経験をしてないということなんじゃないでしょうか。何かを失ったって、世の中全員を敵に回すということはないですから。目の前の相手と喧嘩したら、絶対別の誰かと味方になれます。そこに絶望しないで欲しいですね。

ーー 青木さんが仕事を通じて様々なビジネスパーソンに会う中で、「すごい人」と「全然ダメな人」の差はどこにあると思いますか?

青木 「すごい人」はシンプルに言うと、連絡の返りが圧倒的に早い人。例えば(前著『空気を読んではいけない』の担当編集である幻冬舎の)箕輪(厚介)さんは、とにかくすぐに返事が来る。時間も曜日も関係ない。働くことを自分の人生にしている。そういう人は強いと思います。逆に「今日は、休みなんで」ってためらいもなく言ってくるやつは気合い入ってねぇなって思います。

レベルの高い人は、みなさん等しく命を削って仕事をしています。僕が身体にダメージを受けながら命を削って闘っていることが特別だとは、まったく思いません。一流は常にギリギリの状態で仕事をしている。逆に言えば、一流になるには、ある程度の時間をかける覚悟は必要だということです。