2019.03.16
# 本

作家山本一力が、同郷のジョン万次郎を通じて語る歴史小説の魅力

最初にアメリカで学んだ男の奇跡の冒険
谷村 鯛夢 プロフィール

「松本清張流」歴史を礎にした物語の描き方

山本さん「松本清張さんが、あるエッセイに創作に関するヒントを書いています。それは、だれもが知っている歴史的事実を下敷きにすること。そうすることで読者は、時代背景も含めて事情をスッと理解できる。気持ちを寄せることができる。

こうした基礎がしっかり書けたら,その上にフィクション、物語を構築していけばよい。そうすれば、読者は,その物語を納得してくれる。つまり、歴史小説や時代小説を書くときには、肝心な日にち、時間軸というものを大切にせよ,あるいは歴史的事実を徹底的に調べよ、ということなんです。清張さんに自分をなぞらえることはできませんが、その教えは小説を書く上で最も大事な礎としていますし、万次郎を書いている今もその教えは生きています。

小説〈ジョン・マン〉は現在第七部の〈金鉱編〉まで来ていて,このあと日本に帰り、その後の中濱万次郎になってからの物語が続きます。多分,11巻ぐらいで完結するでしょうけれど、そうした物語を支える歴史的事実はしっかり書いていかねば、と心に決めています。そして、いまこの特別展で展観されているものは、すべてそうした歴史的事実を支える重要な,貴重な資料なんですね」

江戸東京博物館で学んだ「第一次資料」の大切さ

――江戸東京博物館から坂本龍馬の話での講演を依頼された折に、一緒に講演をした東京国立博物館の学芸員の話が心に響いたという。

山本さん「その学芸員の方は刀剣の話をされたんですが、聞いている人たちに若い学芸員も多かったからかもしれませんけれど、強調されていたのは、ものごとを知るためには必ず第一次資料に接すること、という点でした。

分りやすくいえば、一次資料というのは、発信されている様々な情報の根元です。根元を知らなければ,その他の情報の良し悪しを判断できない。二次情報、三次情報は、どうしても筆者の思いが入ってしまっている。だから、どんなに苦労しても研究者は第一次資料に当らなければならない、そうしないと研究が本物にならない、というのです。私も,研究者ではありませんが、この言葉を金科玉条のようにしています。

今回の特別展『ジョン万と呼ばれた男』でも、展示されているものは、研究者としての北代淳二さん、学芸員としての前田由紀枝さん(坂本龍馬記念館)が汗を流して一生懸命集めてこられた,まさに『第一次資料』ばかりです」

左から、前田由起枝さん、北代淳二さん、山本一力さん

――山本さんは、その北代氏が監修した『漂巽紀畧[ひょうそんきりゃく]全現代語訳』(講談社学術文庫)にも触れ、その仕事を賞賛する。

山本さん「もともと,〈漂巽紀畧〉は、万次郎の生涯を知る上で超特級の第一次資料ですが、今回刊行された現代語訳は、非常にいいお仕事になっている。現代人にとってうれしいお仕事をされたと言ってもいい。

こういう本で、ほぼ第一次資料に書かれた歴史的事実と同様のこと、つまり万次郎たちがどういう体験をし、どういう気持ちでいたのか、ということが率直に伝わってくる。万次郎と河田小龍が力を合わせて残してくれた貴重な第一次資料を、そのまま現代に伝えてくれています。

万次郎の証言を元に小龍が描いたボストン市街
同じく、ボストン港

わかりやすく現代語に訳したことは、加工といえば加工ということになるかもしれないですが,それは決して第一次資料を傷つけるものでも何でもありません。文庫本なので入手しやすく、この館の書籍販売コーナーにもあるようだからお帰りの際にぜひ(笑)」

関連記事