女性版『おっさんずラブ』は可能か…本気で考えて見えた大切なこと

「今さら」と言わず読んでください
森山 至貴 プロフィール

「経済力」に関しても、部下の女性が「上司の女性にたくさん稼ぐことを求めていない」可能性は高く、それゆえ強みにならない可能性も大いにある(女性が働いてキャリアを積んでも男性のようには稼げない、という実感を持つ女性は多いし、残念ながら各種統計がその事実をあとづけている)。

登場人物の男女を入れ替えると「経済力」と「家庭的」の意味が変わるだけでなく、恋愛の駆け引き上の強みになりにくくなってしまうのは、それぞれの特質と年齢の関係による。

つまり、年を重ねればより多く稼げる、という前提のもとで語られる「経済力」は、年齢差のある男性同士のカップルにとって男らしさ規範を維持しつつよりその力を持っている方の強みとなりうる

一方で、「家庭的」であることは女性なら誰でもそうあるべきだと考えられやすいために、年齢差のある女性同士のカップルにとってであっても、その特徴を片方の側しか持たないことは二人のフェアな関係性にひびを入れかねない

相手の気を引くためにどんな資源を活用できるか、という点において、男女の間には残念ながら非対称性が存在するのである。

 

「夫婦同姓」への感覚の違い

最終話に向けて「結婚」がクローズアップされていくので(ここでいうところの「結婚」は法律上の婚姻というよりは結婚式や自治体の同性パートナーシップに引きつけてドラマ内では語られている)、「夫婦同姓」に関する描写も検討してみたい。

武蔵は同棲している春田との結婚式の前に「気持ちの上では春田武蔵」と手紙に書いている(最終話)。この設定を女性版『おっさんずラブ』でどう反転させるかが問題である。

武蔵が春田の「妻」としての自意識を持っているのなら、反転させれば女性版おっさんずラブの主人公は「夫」としての自意識を持っている。しかし、結婚した男女がどちらの姓を名乗るかに関する傾向をなぞるのであれば、ここでは主人公は「気持ちの上ではあなたはもう私の苗字を名乗っている」と手紙に書かなければならなくなる。

言い換えれば相手に改姓を強いることになるわけで、これは相手への好意を伝える手紙に書くべきことではない。そもそも、武蔵が「気持ちの上」だけで自分の苗字を変えることを喜べるのは、(同性カップルであるゆえにそもそも改姓という選択肢がないことはおいておくにしても)彼が男性であり、蝶子との結婚生活においても苗字を変える苦労をしてこなかったからだろう。

元夫と離婚して旧姓に戻った女性が主人公であるならば、その苦労からそう簡単に改姓をロマンチックに思い描いたりはしないはずである。

〔PHOTO〕iStock

ジェンダーの非対称性が見えてくる

以上、いくつかの点に関して女性版『おっさんずラブ』の可能性を考えてみたが、単純に男女を入れ替えるだけのことがかなり難しい、というのが私の結論である。

女性たちが「若くはない」ことをことさら見下さずにタイトルに組み込むのも難しいし、ドラマになりうる人数の女性登場人物がいて不自然でない職場を設定するのも難しい。登場人物が恋愛の駆け引きに使える資源も男性に比べて限られている。「結婚」をゴールにするのであれば、男性に比べて女性にとって改姓をめぐる心理はずっとシビアなものになるだろう。

誤解のないように言っておけば、だから私は元の『おっさんずラブ』は出来が悪いと言いたいわけではない。