女性版『おっさんずラブ』は可能か…本気で考えて見えた大切なこと

「今さら」と言わず読んでください
森山 至貴 プロフィール

「おっさん」「おっちゃん」「おばはん」「おばちゃん」のそれぞれについて、どれくらい親しみを込めた、あるいは見下したニュアンスを抱くかは個人の感じ方によって違うだろう。

しかし、男性に比べて明らかにエイジズム(加齢を否定的に捉え、「若さ」を持たない者、高齢者などを差別する考え方)による抑圧を被っている女性たちを主人公にした上で、女性であり、かつ若くないことを示す「おばさん」「おばはん」「おばちゃん」などの名詞をドラマのタイトルにすることは、少なくとも私には当の抑圧の片棒をかつぐようで、(「おっさん」という言葉を使うことに比べて)かなり強い心理的な抵抗がある。

舞台となる業界はどこがいいのか

続いて作品の設定について考えてみよう。『おっさんずラブ』の主要登場人物の多くは天空不動産東京第二営業所の営業部に所属している。第1話冒頭でエピソードとして語られる他の営業所との競争、ホワイトボードに書かれる営業部員ごとの成績グラフなど、ある種のシビアさと表裏一体となった活気が、この物語における職場のトーンを決めている。

〔PHOTO〕iStock

では、女性版でも不動産会社という設定は可能か。残念ながら、そう簡単には成立しないだろう。なぜなら、不動産会社の営業所にはおそらく、女性同士の恋愛ドラマが盛り上がるほど女性社員がいないからである。現に東京第二営業所の営業部員(9名)のうち女性は2名しかいない。

ここでは男女比が『おっさんずラブ』と反転している職場を女性版『おっさんずラブ』の舞台にしてみたい。では、そのような職種には何があるだろうか。

2015年の国勢調査のデータを使って検証してみよう。この数字を使えば、職業別の女性の割合がわかる。天空不動産東京第二営業所営業部は9名中2名が女性なので、女性の割合は22.22%である(国勢調査のデータでは不動産営業職業従事者に占める女性の割合は18.22%なので、『おっさんずラブ』はそれほど大きく実情とずれているわけではない)。

国勢調査の方のデータをもとにして考えると(調査そのものが性別二元論を前提としているので暴力的な計算となってしまうことをお許しいただきたい)、女性の比率が天空不動産東京第二営業所営業部の女性比率22.22%を100%から引いた77.78%くらいの職業からドラマのイメージに合うものを選んで女性版『おっさんずラブ』の基本設定とすることができる。

介護職員(74.64%)美容師(75.08%)飲食物給仕・身の回り世話従事者(78.89%)あたりが近い値だが、ある種の競争が存在し映像的な「職場の活気」が見られるのはやはり美容師の業界だろう。有名美容院で働く女性美容師たちのあいだの恋愛模様、となれば十分魅力的な映像になりそうだ。

 

男性が多い職場、女性が多い職場

とはいえ、美容院を舞台にして美容師を主要登場人物とするという設定は、『おっさんずラブ』の女性版、という当初の想定からはかなり隔たっている気もする。

まず、日常ではそうそうお目にかかれないような「イケメン」俳優ばかりを揃えて男性同士の恋愛というチャレンジングな物語を仕立て、それでもギリギリのところでそれを単なる絵空事として描かないために導入されているはずの「とはいえ彼らは普通のサラリーマンである」という重要な設定が消えてしまう。実態はどうあれ、テレビドラマとして描くには美容師に職業上の特徴がありすぎるのである。