松下恵、女優、38歳、独身。ご本人によれば、人並みに恋愛もしてきたにもかかわらず、一度もプロポーズをされたことがないという。
親からのプレッシャーもあり、30代になるころから、1年1年が過ぎていく度に、焦燥感は高まっていった。「どうして私は結婚できないんだろう?」と考えた彼女。徹底的に自分の内面に向き合ってみることにした。
結婚したいのに結婚できないアラフォー女優が「自分と向き合った心の旅」。
第3回は、10代、20代の恋愛とお見合いの話。登場するのはなぜか変な男ばかり……。
(第一回はこちらから→<アラフォー女優の告白…「私が結婚できない理由を真剣に考えた」>https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60082)
小学生の頃、「おせっかいおばさん」と言うあだ名をつけられていた。
なぜか人の世話を焼くのが好きなのだ。
『3年B組金八先生』で演じた、伊丸岡ルミも「心の母」と呼ばれていた。
恋愛においても、好きな人が問題を抱えていると、どうにか力になりたいとどんどんのめり込んでしまうタイプだ。
高校1年生のとき、好きになった男性は、問題大アリだった!
お付き合いしてすぐは、「僕も一人っ子だよ」と、嘘をついていた彼。
フタを開けてみれば、彼には兄弟がたくさんいて、とても複雑な家庭環境で育った人だった。
彼のご両親は家を空けることが多く、彼が兄弟たちの面倒を見ていた。家計は、常に火の車だったらしい。
マンションが更新時期になる度、あっちこっちに引っ越すので、しょっちゅう民族の大移動をしているみたいで大変だったと聞いた。
彼が、「親が学費を払ってくれない」と落ち込んでいる姿を見て、なんて可哀想なのだろうと同情し、私は彼の「心の母」でいようと、悩みをいつも聞いていた。
つき合い始めて数年たったある日、彼が泣きながら、「母親が自分を借金の保証人にしようとしてる」と電話してきた。「取り急ぎ、今いくらかお金があれば、解決する問題なんだけど……」と。
当時、私のわずかなお給料は、デビューしたときからずっと、祖母が私の将来のためにコツコツ貯金していてくれた。そんな祖母の気持ちも考えず、私は結局、彼のご両親にお金を貸してしまった。
今、彼を救えるのは私しかいない! その一心だった。
20代半ばになると、家庭内で彼にかかる負担はますます重くなり、彼の精神は荒れる一方だった。
ある晩、彼は、突然キッチンから包丁を持ち出し、その柄を私に握らせて、「俺を殺してほしい」と頼んだ。
そう言うとき、人の瞳って、真っ黒だ。
私は深い深い闇に一緒に引きずり込まれそうになりながら、なんとか、この場をしのごうと思った。
本気じゃないことは見抜いていた。哀れに思ってほしい、愛されたい、それだけなのだ。
それでも、何かの拍子にぐさっとやってしまっては大変だし、あやまって自分を刺してしまうかもしれない。私も痛いのは嫌だ。
慌てて、その包丁をマンション2階のベランダから下の駐車場に投げ捨てた(もちろん、下に誰もいないのを確認してから。彼が寝た後、こっそり拾いに行って、元に戻しました)。
そんな初恋だった。
決して、幸せではなかった。自分だってまだ子供なのに、大人のふりをして、相手を優しく包み込もうと意地になっていただけだった。
それは、まだ10代のくせに背伸びして、結婚生活に悩む母親の悩みを聞いていたのと根っこは同じだったのかもしれない。誰かに必要とされたい。必要とされることが、愛されていることなのだ、と思い込んでいたのだ。
7年もの長い年月を共に過ごし、ついに彼から離れることを決断できたとき、私はやっと自分の人生を歩み始めることができるような気がした。