自分で選び取ることは、嬉しい責任であり、大人ならではの特権。

いい素材を厳選して、しっかり準備をして、100年200年朽ちないものを作り上げる職人の世界との出会いが、山口さんの人生に対する考え方に変化をもたらした。

「100年先の未来に誇れるかどうか。その問いかけを胸に、自分の仕事に責任を持ちたいと思うようになりました。そうしたらとてもラクになった。こういうものが世の中に生まれたら楽しいだろうな、と自分自身思えるもののために力を注ぐ仕事は、楽しくてたまらない。ものでも、文化でも、受け継がれてきた素敵なものに、さらに夢を加えて、次に手渡すことが私は好きなんだと、やっと気づきました」

2011年からは、『LISTEN.』という、民族音楽を入り口にして世界を巡る映像シリーズを自ら立ち上げた。

「時間と手間はかかるけれど、世界の魅力的な人々の姿を、夢ある映像に収めて、100年後の未来に自慢できる、タイムカプセルみたいなものが欲しいなあと思って。未来に誇れる『今』を収めた宝のカプセル。ターゲットを100年先ぐらいに設定すると、余計な雑念なんてどこかへ吹き飛んで、大河にたゆたうように心地よく、安心して新しいチャレンジができる」

40代後半にして、山口さんはライフワークを見つけた。でも、だからといって俳優の仕事をセーブしているわけではない。彼女の人生の大きな柱は、人間として学び、感動し続けること。その経験の積み重ねが、俳優としての存在感を増すことにもつながると考えている。

「だって、俳優でいるためには人間として成長し続けなきゃいけない。年を重ねたぶんだけ、人間としてストンとそこに立っただけで人生の厚みを醸し出せる存在感を放てるようになりたい。『ザマーミロ、ここまで来てみろ』って言えるような、カッコいいオーラを発したい(笑)。とにかく学び続けて、目一杯感動して、『世界一幸せだ』と胸を張れる人生。いろんな再発見や感動は、そのための修行の道だと思っています」

〝受け継がれてきた素敵なものに夢を加えて、次に手渡す〞と言葉にするのは簡単だが、彼女の物事に取り組む姿勢は、どこか献身的な感じがする。そのエネルギーがあまりに膨大なので、「そうやって頑張れるのは、〝自分のため〞じゃないからですか?」と質問すると、目を丸くして、「え、どうして? 自分のためですよ」とあっけらかんと言った。「世のため人のため」などと聖人ぶることは一切なく、あくまで、「自分にとって何がザワザワするか」を大事にしている。つくづく正直な人だ。

「人生って、どれだけ自分でエキサイトできてるかですよね。まずは、自分が率先して幸せにならないと、人を巻き込んで幸せにしていけない。自分で道を選び取れるということが、何よりの幸せだと感じます。YESかNOか、自分で選び取ることは、大人の嬉しい責任であり、大人ならではの特権。あれこれ悩む暇があったら、自分の心に耳を傾けて、着々と選択していけばいいんです。選び続けていれば、人生は前に進んでいく」

後編に続く

PROFILE

山口智子 Tomoko Yamaguchi
1964年10月20日生まれ。「中学生の時は、隣町に電車で映画を観に行くだけで補導された」ほど、カルチャーとは縁遠いのんびりとした田舎で育つ。短大進学のために上京し、ViViモデルを経て、’88年NHK連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』で女優デビュー。奇しくも、「家業を継ぎたくなくて逃げ道を探していた」その家業である、旅館の女将役を演じた。

映画は、『居酒屋ゆうれい』(’94年)『スワロウテイル』(’96年)、ドラマは『スウィート・ホーム』(’94年)『王様のレストラン』(’95年)などに出演。20代後半から30代にかけて、〝自然体〞かつ〝等身大〞かつ〝男前〞な大人の女性として、同性からの圧倒的な支持を得る。’95年、唐沢寿明と結婚。

2000年以降は、旅の映像シリーズに携わったり、もの作りを極める職人の元を訪ね文章に収めるなど、自ら出演する以外の方法でも、〝もの作り〞と関わるように。2011年より、音楽を入り口に世界を巡る映像シリーズ『LISTEN.』がBS朝日でオンエア http://www.the-listen-project.com/jp/)。未来に伝えたい美しい「今」を収めた「タイムカプセル」だという。毎年数エピソード放送。
●情報は、FRaU 2016年3月号発売時点のものです。
撮影/伊藤彰紀(aosora) スタイリスト/清水けい子(SIGNO) ヘアメイク/ MICHIRU(3rd) 取材・文/菊地陽子