“美しさ”で得をした人のツケは、中年以降にやってきます

先月まで、「近代能楽集 葵上・卒塔婆小町」という舞台で、全国を回っていました。これは、三島由紀夫さんが、能をモチーフにして、書き下ろしたお芝居で、「葵上」の主人公は「源氏物語」の六条御息所、「卒塔婆小町」の主人公は、小野小町がモデルになっています。

六条御息所も小野小町も、どちらも頂点まで行った美女。でも、小野小町も、晩年は行方不明で、野たれ死にしたのではと言われています。「葵上」も「卒塔婆小町」もいってみれば、“正負の法則” をみなさんにわかっていただくためのお芝居でした。

六条御息所は、光源氏の前の皇太子妃です。その皇太子が死に、昔の恋人だった光源氏の行列を見に行くと、時の左大臣の娘である恋仇の葵上が乗るピカピカの牛車と鉢合わせし、葵の下人に恥辱的な仕打ちを受けたことなどで、生き霊となって、葵上を悩ませます。六条御息所は、覚醒している時は、良識のある立派な女性です。それなのに、なまじ皇太子妃まで上り詰めたことが、彼女を苦しめることになります。

「近代能楽集」では、ヨットの上で、若い男に、「私はもうおばあさんだわ。一度傷を受けたら、若い女のように回復が早くないの。夜が来るように、苦しみはいずれきますわ」という台詞があります。どんなに美しい貴婦人でも、生涯を通じては幸せになれない。何かを得れば。何かを失うのです。

「卒塔婆小町」では、平家物語の一節もモチーフになっていました。「沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす。驕れるものは久しからず」と。私は、長崎時代から今に至るまで、盛者必衰の世の中を、ずっとこの目で見てきました。美しかった人ほど、しわやたるみが増え、老いた時に悲惨な状態になる。ですから、人のことを羨むのはやめなさい。この世の中で、悩みのない人なんて一人もいないのです。小さい子供だって、その子なりに悩んでいるのです。

私は、この “正負の法則” を社会、政治、経済、歴史、生きることの営み、全てに当てはめて考えてみることを、皆さんにお勧めします。若い時は、何から何までいいことずくめの人生を望みがち。でも、それが叶ってしまったら、必ず不幸のツケはやって来ます。自分は美人で才能もない、と嘆く暇があったら、逆に、その不器量や才能のなさを、災いが起こらない幸運と受け止めればいいのです。

PROFILE

美輪明宏 Akihiro Miwa
長崎県長崎市出身。シンガーソングライター、俳優、演出家。7月末までは「ロマンティック音楽会~生きる~」(http:o-miwa.co.jp/category/recital/) で全国を回り、9月からは「美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり」で美輪さんが愛した銀巴里時代の空気を再現。9月8日~24日東京芸術劇場プレイハウスhttp:www.parco-play.com/

●情報は、FRaU2017年7月号発売時点のものです。
Photo:Yoshinori Midou Interview:Yoko Kikuchi