近著『 i 』では、血縁にたよらない家族のかたちを描いた。自身は、父の転勤でイラン、エジプトで幼少期を、20代後半まで大阪で過ごす。2012年に結婚、2017年に母になったばかりの西加奈子さんに、いま彼女が抱く家族観を尋ねた。

「加奈子の中身が変わらなかったから」

「69歳の母は、めちゃくちゃいいやつなんです。お釈迦さんか、天使ちゃんみたいな人。メーカーに勤める父の仕事の関係で、イランやエジプト、いろんな土地に住んできたのですが、どの写真を見ても全部笑ってる。みんなから愛されてきたんだなあってわかります」

一児の母というより、どこか少女のような、みずみずしくはつらつとした表情で西加奈子さんは語る。

「すごく奔放で素直だから、悲しいことがあれば本気で泣くんです。自分自身も子どもだってよくわかっているし、親だから躾(しつけ)をこうしようとか、あれしろ、これしろがないんです。怒られたこともないし、勉強しろと言われたことも一度もないですね」

学生のとき、試験勉強をしていたら、母が突然部屋に飛び込んできて叫んだ。

「あんたっ、なにやってんの! いま『24時間テレビ』で、司会のダウンタウンさんが泣いてるで!」

なにやってるのって勉強してるんですけどね、さすがにあのときはあっけにとられましたと、西さんは笑う。その朗らかな笑顔から、彼女の母親の人柄までもありありと想像できる。周囲をふわりと包み込むような、やわらかな明るさはきっと母譲りだ。

「ハイティーンのときは髪の毛を染めたりドレッドにしたりして、クラブで遊んで朝帰りとかしてたんです。あとから知人に母が、“加奈ちゃん、いっとき心配したけどよく我慢したね” と言われ、“え? なにが?” と聞き返したそうです。人の悪意とか、悪く言われていることとか気が付かないんですね。私のことも、“あんたはかわいないけど、華がある!” ってずっと言ってましたから(笑)。なにかしら、褒めてくれていました」

最近西さんは、娘が髪を染めてドレッドにして朝帰りしていた頃、なぜ他の人のように心配をしなかったのか? と母に聞いたそうだ。母の答えは明解だった。「加奈子の中身が変わらなかったから」

西さんはかつて、直木賞受賞後第一作『まく子』についてのインタビューで、こう語っている。

『私自身が子どもに戻りたいんです。大人になった自分の頭があまりに凝り固まっていて、“大人だからこう” とか “独身だからこう” “既婚者だからこう” というふうに、いろいろな偏見を持っちゃっている。そうした偏見を、子どもに戻ることで吹っ飛ばしたい』(「ダ・ヴィンチ」)。

また、別のインタビューでは、『自分は偏見持ち。だからこそ世の中でダメとされていることは本当にダメなのか? を自分の小説の中で表現していきたい』とも語っている。派手な身なりをして、朝帰りをし、周囲から憂慮されていた娘を、中身が変わっていないからと一度も叱責しなかった母。親だから、大人だからという価値観を持たないこの母をもってして、小説家・西加奈子の作品は生まれたといっても間違いではないだろう。

西さんは、大きな瞳をまっすぐこちらに向けて言った。

「肯定されて育った。それはめっちゃありがたいことでした」