――ちなみに、いまはどんな役をやりたいと考えていますか?

「基本的にサスペンスが好きなんですが、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(’95年)という映画を久しぶりに観たらすっごく面白くて。20 年以上前の作品ですが、全然古くないんです。こういう映画をやりたいなって」

――それは、グウィネス・パルトロウの役をやってみたい、ということですか?

「いえ、ブラッド・ピットの役をやってみたいんです(笑)。若手刑事という歳ではないですけれど。

要するに、素晴らしい映画やドラマって色褪せないんです。いつの時代に観ても面白いし、どの時代でも受け入れられる。それがこの仕事の良さですよね。だからこそ、続ける意義があるというか。

たとえば、亡くなられた緒形拳さんは私がもっとも尊敬する俳優さんですが、拳さんの出演作には、『鬼畜』(’78年)だったり『楢山節考』(’83年)だったり、素晴らしい作品がたくさんあって、映画の中でイキイキと生きている拳さんを観ると、亡くなった気がしないんです。拳さんは作品の中でずっと生きている。映画を観ればいつでも拳さんに会える。

ですから、素晴らしい職業に就いたなと思うんです。それこそ、誰かに影響を与え、人生を変えてしまうかもしれない作品に出られるというのはすごいこと。私は恵まれた仕事をしているんだなって。

家事や育児と両立するのは大変じゃないというとウソになりますし、不平不満を言い出せばキリがない。でも、それを越える、やりがいのある仕事をさせていただいていると思うと、もっともっと先を見るべきだなって。振り返ってクヨクヨしてはいけないなって」

――「先を見る」「振り返らない」。なるほど。今回、お話をお伺いしていると、木村さん自身の根っこはそこにあるような気がします。

「後ろを振り返ってもしょうがないと思ってるんです。過ぎちゃったことは過ぎちゃったこと。反省はしますけれど、過ぎたことを後悔してもねって。

実はこれ、一緒に住んでいた祖母によく言われていたことなんです。
『クヨクヨしてはいけないよ。いまはいましかないんだから。いまやりたいことはいまやる。あとであれをやりたかったと後悔するのは時間の無駄。失敗してもいいからやりたいことをやりなさい。死ななきゃ大丈夫だから』って。

明治生まれの祖母はそういう人でした。あの時代の人は強いんです。戦争を体験している人はみんなそうなんだと思います。私自身、忘れっぽいというのもありますけれど、ただやはり、振り返っているヒマがあるなら、いまと明日のことを考える。それに尽きると思いますね」

――では、明日以降のことは?

「そこもあんまり考えていても意味がないなって。予定に縛られてしまうと、いまを生きることができなくなる。最初にも言いましたけれど、行き当たりばったりの私ですから(笑)」

明日は明日の風が吹く。Tomorrow is another day. ふと、マーガレット・ミッチェルの小説『風と共に去りぬ』のヒロイン、スカーレット・オハラの名文句を思い出す。映画でもヴィヴィアン・リーが最後に言うセリフだ。彼女の目指す女優とはどういうものか気になった。

「役者業って定年がありませんから、歳を取ったら素敵なおばあちゃんを演じたいとは思いますね。

先日『オリエント急行殺人事件』(’17 年)を観たんですが、ジュディ・デンチってすごいなあと感激しました。80歳を超えているのに、ものすごくカッコいいんです。あんなふうに私も輝き続けられたらいいなって。

『真田丸』でご一緒した草笛光子さんもそうです。草笛さんも84歳になられましたが、誰よりもお元気で、お話をするととっても楽しい。

大竹しのぶさんも大好きでよくお話をします。それこそ、子育てのこととかもいろいろうかがって、勇気づけられますし学ぶこともすごく多いですし。

役者って同じ作品になると、先輩も後輩も子役も意外と対等で、お互いに刺激を受け合う職業なんです。経験を重ねると、頭でっかちになって、凝り固まってきてしまうところもあるので、そういう枠は取り払って、いつでも柔軟な状態でいたいと心がけています」