旅のしめくくりは、
名古屋のソウルフードで。
食いしん坊でもあり、お酒も好きな原さんが最初に向かったのが、飲み助垂涎の酒場『大甚』。1907年創業の超古参である。午後4時、暖簾がかかって開店するなり、店内は満席に。
ずらりと並ぶつまみにワクワクが止まらない。好みの小鉢を選ぶもよし、大皿に盛られたつまみからよそってもらうもよし、冷蔵ケースの魚を刺身にしたり、焼いたりしてもらうもよし。食も進むが酒も進む。
いつもエレガントで上品な原さんが、大衆酒場で楽しむ風景も、なかなかにオツなものである。見ていると、あまり長っ尻な客はいない。名古屋は酒場ホッピングを楽しむ土壌があるのだろう。
次は、名古屋といえば、のウナギ屋『うな富士』へ。今回のフード散策は、あくまで庶民派。晩ご飯に関しては、豪勢なところには行かない旅。食欲の赴くままに進んでいく。
名古屋のウナギといえば、ひつまぶしが順当な選択だが、なにしろ、あちこちホッピングするのが目的だから、そこはぐっと我慢。
こちらの店も早い時間から満席ゆえ、外に用意されたテントで待つ。「東京と違って、地焼きだから、香ばしくておいしいですよね」と、原さん。
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さらに、名古屋人のソウルフードともいうべき「どてやき」の店へ。下町という雰囲気の通りに、ぽっと明かりが灯っている店が目指す『どての品川』だった。どてやきというのは、牛スジやモツを串に刺して、ぐつぐつぐつぐつ、大きな鍋で煮たものだ。
50年以上、継ぎ足し継ぎ足し煮ているという味噌ダレの匂いにつられ、客がどんどん増えていく。ここでは、味噌ダレの他に醬油ベースのタレで煮たものもあり。外で立ち飲みするのがいかにも通っぽいが、寒いので中へ。
立ち飲みの人は、各自で鍋から串を取り出し、串の数で支払うスタイル。中には小上がりとテーブル席があって、常連さんたちが思い思いに注文する。どてやきと串カツを頼む。
もちろん、傍らには酒である。串カツはソースか醬油、どてを選んで、つけていただく。原さん、ねぎまカツのボリュームにノックダウン。「もうムリかも」とネを上げた。それでも、楽しそう。
「こんな楽しみ方があったなんて。今までの20年、何だかもったいなかったわ。今度こそは1泊してゆっくりと酒場をホッピングしたい」とつぶやきつつ、名古屋を後にしたのである。
PROFILE
原由美子 Yumiko Hara
雑誌「アンアン」創刊時よりスタッフとして参加。2年後からスタイリストの仕事を始める。以後、数多くの雑誌のファッションページに携わる。著書に『原由美子の仕事 1970→』『原由美子のきもの暦』など。
●情報は、2019年2月現在のものです。
※本記事内の価格は、すべて税込み価格です。
Photo:Norio kidera Text:Michiko watanabe