旅好きセレクターによる、旅へと誘う本をご紹介! 今回は、デザインジャーナリストの川上典李子さんに選書してもらいました。

新しい地平を垣間見る時間

会いたいデザイナーやアーティストに連絡し、制作の場で作品を拝見したり、話をうかがう。旅とともにある仕事を続けている。

作家のスタジオで、樹木の葉擦れの音を聴き、私が普段感じているのとは異なる太陽の光や湿度に包まれつつ、話に耳を傾ける。仕事というひと言ではとても括れない、このうえない幸せな時の流れを感じながら。

旅 インド・トルコ・沖縄
安藤忠雄 著/住まいの図書館出版局(1989年)
インド、トルコ、沖縄。安藤忠雄の心を捉えた建物、風景を描いた、旅のスケッチブック。建築への思いがひしひしと伝わってくる。

おもしろいのは、「旅」そのものの話題で、会話が大いに膨らむことだ。一人ひとりの心の深いところに刻まれた光景や発見が、創造力の源泉となっていることを改めて知る。

旅に関する著述が多い建築家、安藤忠雄さん。「見知らぬ風土に身を置くと、新たな地平を垣間見ることができる」との文章は、『旅』に。この本を私は何度読み返しただろう。

極北へ
石川直樹 著/毎日新聞出版(2018年)
カナダ、アラスカなどの北極圏とその周辺地域「極北」。人間の野性を呼び覚ます圧倒的な世界との出会いを瑞々しい文章で綴る。

作品の背景を知る本も楽しい。石川直樹さんの近著、『極北へ』。写真集『POLAR』にも収められていた北極圏の光景が目の前に広がり、凜とした空気を呼吸している気分になる。


スタジオ・オラファー・エリアソンキッチン
スタジオ・オラファー・エリアソン 著/美術出版社(2018年)
スタジオ・オラファー・エリアソンのキッチンから生まれる美味しいベジタリアンレシピ集。家庭向けのレシピも収録されている。

現代美術家、オラファー・エリアソンのスタジオ内の共同キッチンのメニューを紹介する一冊では、料理本としての魅力だけでなく、彼らの創造の哲学にも触れられる。「ああ、このスタジオを訪ねてみたい!」と、本を手にとりながら、私の心は大きく動いた。

旅の目的地はいつも新しい世界のはじまりとなる。動きながらたくさんの大切なことを考える、旅の醍醐味は続いていくのだ。今年訪ねる先では、何に出会えるだろう。

PROFILE

川上典李子 Noriko Kawakami
デザインジャーナリスト。21_21 DESIGN SIGHT(東京)のアソシエイトディレクターのほか、国内外の展覧会のキュレーションに関わる。次の旅は北と西へ。

●情報は、2019年2月現在のものです。
Photo:Toru Oshima