「日本の保育無償化は誰も幸せにならない」といえるこれだけの理由

むしろ支払いが増える家庭も
猪熊 弘子 プロフィール

むしろ支払いが増える家庭も

上記の「利用料」の内容を見ていくと、ほかにもさまざまな問題があることがわかります。

ひとつは「給食費」です。給食費については、現在、1号認定の子どもは実費、2号認定の子どもはごはんやパンなどの主食費については実費負担していますが(東京など、一部の自治体では主食費についても自治体が補助して無料となっているところもあります)、副食費(おかず)については公定価格に含まれることから支払っていない状況にあります。

これが「無償化」後は、1号、2号共に、保護者が主食費と副食費を含めた給食費を支払わなければならなくなります。これまで、認定こども園では同じ3〜5歳でも2号認定の子どもだけは主食費のみの支払いになり、「不公平」という意見もあったため、その差がなくなるとも言えます。

ところが、2号認定の子どもの場合、保育料は無償になったのに給食費がそれを上回り、無償化されたはずなのに、負担が増える家庭が出てくる逆転現象が起こる可能性が懸念されます。そこで自治体によってはすでに、この逆転現象を防ぐための措置を取ることを決定しているところもあります(石川県金沢市など)。住んでいる自治体の対応を確認しましょう。

給食費の徴収方法についても課題があります。子どもは病気で園をお休みすることがよくあります。もし厳密に、給食を食べた日の分の給食費を徴収することになれば、子ども1人ずつの料金が変わってくるでしょう。また毎月一律の料金にしたとしても、自治体が徴収するのか、園が徴収するのかという問題があります。また、さまざまな理由で給食費を支払わない親がいた場合、園が給食を提供しない、ということにつながるかもしれません。提供すればそれは園の負担になってしまいます。

また「無償化」によって自治体の負担が急増するという問題もあります。この施策の財源は消費税ですが、来年度いっぱい(10月〜3月分)については国が負担するものの、再来年度以降は自治体も無償化の費用を負担しなければなりません。無償化によって保育にかかる予算が急増することもあり、自治体の財政を逼迫させることにもつながりかねません。

「区分」の問題もあります。満3歳から1号認定として入園できる幼稚園では、3歳のお誕生日を迎えた日(保育所では2歳で3号認定)から無償の対象となりますが、保育所では3歳児クラス(満3歳になった最初の4月1日以降)から無償の対象になります。数か月の差でしょうが、この違いも公平とは言えません。

日本の保育士配置基準は世界最低レベル

保育まで含めた無償化を行っている韓国では、待機児童のような問題はないそうです。また、保育の監査制度が整っており、質の悪い保育を駆逐できるようになっています。一方、日本では認可施設の監査制度も整っておらず、保育事故が多い認可外保育施設も含めて無償化されることになっています。

元々日本の保育の質は良いとは言えない状況です。特に3~5歳の職員の配置基準はOECDでダントツ最低レベル(保育所3歳児20対1、4・5歳児30対1、幼稚園3〜5歳児35対1)であり、無償化の前にまずはそれらの状況を改善するべきです。待機児童解消ももちろん大きな課題です。

日本の保育政策は、そのときの社会情勢に応じて場当たり的に付け加えられ続けてきました。本来、保育や幼児教育は親のためではなく、子どものため、でなければなりません。今回の幼児教育無償化は、子どものためではなく親のためとしか思えません。反対している人が多いのも当たり前のことです。

この状況の中で、数日前から「景気後退」に関するニュースが流れてきています。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190307-OYT1T50190/

その結果、消費税アップが行われない……ということになっても幼児教育無償化を行うのでしょうか。そもそも、本来2015年10月には10%までアップされていたはずの消費税をあてにして、2015年4月から導入された子ども・子育て支援新制度は、保育の質の向上のために3000億円以上を充てるはずが、実行されないままの状態です。そもそも消費税をあてにして子どものための施策をするのが良いことなのかどうか……といったことも含め、「幼児教育無償化」=保育の無償化は、厳しい状況にあるといえるでしょう。