「円周率の日」に数字を無限に並べて計算してみたら…美しい!

無限の彼方をどう計算するか
鈴木 毅 プロフィール

しかし、ここでちょっと問題が起きています。

それは、前の数式の下のほう、「2つをかけ算したら「0」」という特徴です。0が出てくると、割り算の時に困ります。どんな数も0で割ることはできないからです。また、通分するときに分母を掛け算して0になってしまっても困ってしまいます。

無限桁の数の面白い特徴がたくさんわかってきたところですが、割り算で問題が発生するという残念な空気が漂いはじめました。

なぜこのような問題が発生したのでしょうか。それは、私たちが自然と使っていた数、9に1を足したら繰り上がって10とするという【10進数】に原因があります。

「10」が良くなかったのです。じゃあ、何が良いのか。【素数】であれば良いのです。素数進数です。

素数とは、1かその数自身しか約数を持たない数のことです。たとえば、

2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23,…

などがあります(1は定義上、素数ではありません!)。

素数進数というのは、2進数、3進数、5進数などということです。これらで無限桁の数を作れば、0でない数を使ってどんなかけ算をしても0にならないので、安心して割り算ができます。

素数は英語で「Prime(プライム)」というので、この素数進数は【p進数】と呼ばれます。

p進数の世界では無限桁の数で通常の計算ができます。そして、私たちが普段使っている数ではうまく表せなかったような次の数が、p進数では書き表せるのです!

  • -1(私たちの世界ではマイナス記号が必要ですが、無限桁の数を使えばそんな記号は不必要です)
  • 二乗して2になる数(√2ですが、ルートという記号は不必要です)
  • 二乗して-1になる数(「虚数」と特別に呼ぶ必要がない世界です)

3.万物はp進数である、かも

さて、円周率の無限小数から連想した無限桁の数がp進数という新しい数の世界につながりました。

しかし、「おもしろい数だけど、数遊びだよね」と思われてしまいそうです。

ところが、最近、私たちのこの世界を理解するにはp進数を使えばよいのではないかという研究が進んでいます。それが、【p進量子力学】です。p進数を使って、量子力学という物理学を研究している分野です。

量子力学という学問は、「物質にはなぜ色があるのか」「火や電球がなぜ光るのか」「新しい性質を持つ化学物質はどのようなものか」などを教えてくれます。p進量子力学によれば、この世界の物理法則はp進数で書かれているのではないかというのです。

p進量子力学(1987年ごろより発展)は、数学でp進数が発見(開発?)されてから(1900年ごろ)始まった分野です。数学の研究は誰よりも先にこの世界のことを知ることができる研究なのかもしれません。

いかがでしたでしょうか。無限桁の数はただの数遊びではありませんでした。読者の皆さんもこの円周率の日々を機に、「数学は面白いなあ」とか「自分独自の発想をしてみよう」とか「数学の世界に入りたいなあ」とか思ってもらえればうれしいです。

【参考文献】『天に向かって続く数』加藤文元、中井保行 日本評論社 2016年9月30日第一版

【謝辞】今回、この記事を執筆するにあたり、東京工業大学理学院数学系の加藤文元先生には大変お世話になりました。この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。
※加藤先生のメッセージ、そして充実の「補遺」も盛り込んだ完全版は日本科学未来館科学コミュニケーターブログでお楽しみください。