「働き方改革」と言うと、大企業による残業時間の規制などがよく話題にのぼる。それゆえ、大企業の専売特許だと思われがちだ。

一方で、中小企業にも、高い業績と適切な働き方を両立している企業もあれば、なかなか働き方を適切化できずに苦しんでいる企業もある。

筆者はこれまで1500社ほどの中小企業の職場を訪ねてきたが、その中から、高い業績と適切な働き方を両立している企業、そして中小企業に独特の働き方改革の難しさをご紹介しよう。

「あえて店舗を拡大しない」広島のケーキ店

広島県の福山市にある大学に勤務していた関係で、よく近隣の府中市に調査に出かけた。人口4万人の小ぶりの町だが、創業してから100年を超える企業(61社)が多く、大企業と零細企業が混在する地域である。

その「百年企業」の中に「パティスリーパンセ」というケーキ屋さんがある。創業は明治12年。福山藩の藩士だった人物が和菓子屋を開業したのが始まりだ。戦後になって洋菓子も扱い始め、いまはクッキーなど洋菓子の専門店である。この店のクッキー類は評価が高く、夕方には全てが売り切れる。パーティなどのためのお土産用の場合は相当前から頼まないと対応出来ない。

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いやそれだけではない。インターネットによる注文は受け付けるが、品物はお店まで受け取りに行かねばならない。「宅配便」で送ってもらうわけにはいかない。なぜなら「お客様と顔の見える範囲でお店をやっていきたい」という意思があるからだ。

つまり店を大きくする気持ちと大量販売の意思がないのである。以前は郊外のショッピングセンターなどにも店を開いたことはあるが、すぐに閉じてしまい、現在は街中のお店のみの営業だ。経営者は五代目だが、頑固なわけではない。

店を大きくする気があればいくらでもできる。インターネット販売のみならず、大型店からの出店の誘いはある。しかしそうはしない。身内の4人と近隣から通う従業員(2人)の6人で、製造から販売までを担い、「顔見知り」のお客を相手に、販売が終わる夕方には店を閉じる。つまり夕方に売り切れる程度にしかつくらないのである。経営の基本が「足るを知る」という姿勢であり、このパンセは小規模企業の典型である。

理想的な働き方を実現したベーカリー

もう一つパン屋さんを紹介する。東京・浅草(田原町)にあるペリカン。この店はずいぶんと有名だ。休日になると遠方からパンを買いにくる。パンの種類は食パンとロールパンのみ。この店も夕方5時前になると全部売り切れる。

ペリカンの10人の職人の出勤時間は早番(朝の3時出勤)と遅番(朝の8時出勤)の二通り。二交代で一日に食パンを400本から500本焼く(1本が3斤で1140円)。ロールパンは4000個(5個入り460円)ほど。なお販売係も10人である。

ペリカンも小規模企業の典型だ。工場を別に作って大量生産に入ると、大量販売の体制が必要になり、仕事の流れ全体が変化し、マネジメントも変えねばならない。パンを焼く窯も曾お祖父さんの代からのものをメンテナンスしながら使っているので、簡単に変えるわけにはいかないのである。

ペリカンもパンセも、従業員はみな定着(長期勤務)しているし、基本は家族経営だ。仕事ぶりをみていると「過労死」とか「ブラック企業」といった言葉はとても遠い。健全そのものだ。理想的な働き方を実現させていると言えるだろう。