テクニカル・ディレクターが引っ張りだこ

テクニカル・ディレクターはいま、広告制作の現場でとても重要な役割を果たしている。先日発表された「日本の広告費2018(電通)」によると、日本でもいよいよ今年、デジタルの広告費がテレビのそれを上回ると予想されている。

ここ10年で顕著になった流れではあるが、広告の"ネット化"が急速に進むなか、企業によるデジタル・マーケティング施策は多様化している。

ウェブサイトからSNS、アプリ、サイネージなど、制作サイドに求められるアウトプットは様々だ。当然のことながら、用いる技術もオーダーに応じて多岐にわたる。

こういった状況を受け、クライアントや施策を企画する広告会社と、実制作を行うエンジニアの橋渡しとなるディレクターの重要性が増している。

現にウェブ制作会社に所属していたり、フリーで活動する腕利きのテクニカル・ディレクターは各所から引っ張りだこである。

言うならばテクニカル・ディレクターは、ネット時代の花形職業のひとつではあるのだが、YouTuberのように前に出る存在ではない。キャンペーンなどのブランド施策を技術面からサポートする、どちらかと言うと縁の下の力持ちである。

ネット広告産業が拡大しているのと裏腹に、その仕事環境には課題もある。無理難題を押し付けられやすいのだ。

この職種に限らず様々な現場で生じることではあるが、発注サイドのデジタル技術に対する理解が乏しいことから、スケジュールや予算を含めありえない条件でのオーダーが横行し、悩みを抱える技術者も多い。

BASSDRUMはその課題にアプローチし、多くの人に耳慣れない「テクニカル・ディレクター」という職種の社会的評価を向上させようとしている。

同社の代表を務める清水幹太氏は、東京とNYを拠点に活動し、カンヌ国際クリエイティブフェスティバルを始め国内外の広告アワードで数々の受賞歴を持つテクニカル・ディレクター兼クリエイティブ・ディレクターだ。清水氏は同社設立の動機を次のように話す。

「制作会社のプログラマーは、企画・制作・開発のプロセスの中では末端と言っても過言ではありません。バンドで言うなら、ボーカルやギターのように前に出る仕事ではなくベースやドラムに当たるパートで、みずから手を動かす職人でもあります。

しかし、商業クリエイティブの世界には、技術者をリスペクトせず、下請けのように扱って、無理な開発を強いるような傾向も見受けられます。特に日本だと、ボーカルやギターのようなフロントに出る人じゃなければ仕事が評価されにくいのが現状です。

BASSDRUMが実現したいのは、愚直にいいリズムを刻む職人たちに光を当て、業界のヒエラルキーに埋もれている多くの優秀な人材にチャンスをもたらすこと。テクニカル・ディレクターの社会的地位を確立し、労働対価の統一と向上を図ることも目標のひとつです」

「業界のヒエラルキーに埋もれている多くの優秀な人材」——この清水氏のコメントには、広告業界に限らず、日本人の働く環境に共通の課題を見ることができるかもしれない。

現場でその職能を発揮していい仕事をする"リズムセクション人材"をきちんと評価しきれない風潮が、働き方改革がなかなか進まないことの根っこにあるのではないだろうか?