プーチン大統領の巧妙で恐ろしい「愛国主義政策」ここまで進んでいた

教科書やテレビへの介入は当たり前
西山 美久 プロフィール

ゲオルギー・リボンと「不滅の連隊」

5月9日の戦勝記念日が近づくと、ロシアでは、オレンジと黒の2色から成る「ゲオルギー・リボン」を身に付けた人々を頻繁に目にする。このリボンは、戦争で功労のあった軍人に贈られる「ゲオルギー勲章」のオレンジと黒のリボンを模したものである。

2005年にリア・ノーヴォスチ通信や学生団体がリボンの配布活動を考案し、現在でも続いている。5月になるとロシア各地でリボンが配られており、道行く人々が身に付けている。また、街の至る所に大小様々なリボンが飾られ、街は戦勝ムード一色に染まる。

ゲオルギー・リボンをつけた女性〔PHOTO〕Gettyimages

モスクワの赤の広場で行われる軍事パレードでは、現役の兵士達がゲオルギー・リボンを付けて勇ましく行進する。このリボンは、パレードで披露される装甲車等にもペイントされており、戦勝のシンボルとなっている。

さて、2007年に政府系機関の「世論基金」が実施した調査によると、回答者の73%がリボンに対して肯定的だとし、反対はわずか2%に過ぎなかった。

戦勝記念日には、プーチン大統領やメドヴェージェフ首相をはじめ、政権閣僚も率先してリボンを付けるなど、国民的一体感を演出している。政権は、世代や民族の違いを超えて皆がリボンを身に付けることで、大国ロシアの国民としての意識が育まれることを期待しているのだろう。

政権は「不滅の連隊」という運動にも着目した。これは、5月9日の戦勝記念日に、大祖国戦争で犠牲となった家族の写真を掲げて市民が行進するものである。2012年からロシア全土で実施されており、参加者はゲオルギー・リボンを付けて行進している。国民による自発的な運動だが、毎年各地で大々的に行われており、国営テレビを中心に全国の様子が中継されている。

2013年にはモスクワで初めて実施され、プーチンも父親の写真を手に参加者の先頭に立って行進した。政府機関紙の『ロシア新聞』には、父親の写真を掲げるプーチンの写真が一面トップで掲載され、政権が運動に積極的に関わる姿勢が伝えられた。一部報道によれば、2017年にモスクワで行われた「不滅の連隊」には85万人が参加したという。

ナチス・ドイツに勝利した大祖国戦争での記憶はロシア国民を束ねる神聖な物語であり、政権は草の根で始まった運動に様々なレベルで関与し、国民統合に努めている。

 

愛国心向上のためのテレビ局「ズヴェスター」

ソ連崩壊後の改革によってロシアの政治経済は混乱を極め、1996年の大統領選挙では共産党候補が当選するとまで言われた。再選を目指すエリツィンは、改革の過程で巨万の富を得た新興財閥(ロシア語で「オリガルヒ」という)に協力を要請した。彼らは支配下にあるメディア、特にテレビを活用して世論を誘導し、エリツィン再選に貢献した。

大統領選挙後、新興財閥は次第に影響力を強め、政治と癒着するようになった。

しかし、2000年に大統領に就任したプーチンは新興財閥の影響力を排除し、彼らが支配する主要テレビ局を掌握してメディア統制を進めた。また、これとは別に国営テレビ局もあり、「ロシア1」やニュース専門チャンネル「ロシア24」等で政権の公式見解が幅広く伝えられている。