〔PHOTO〕iStock

「統計不正」とは何だったのか? 労働経済学者が問う「問題の本質」

マスコミの批判も焦点がずれている

統計不正問題をどう考えるか

毎月勤労統計の調査が計画通りに行われていなかったことに端を発した統計不正問題は国会で大きく取り上げられることになった。統計の問題が社会問題として大きく取り上げられることは少ないだろう。

これまで政府統計個票を使って研究を行ってきた私にとって、政府統計への信頼が揺らぐことは、研究の根本が揺らぐことであり、看過できない問題だととらえている。

今回の問題をどのようにとらえるべきか、研究者は今後どのように対応すべきか、あるべき改革の方向性を私なりに整理してみたい。

まず、今回の統計不正の問題は、その問題の広がりを画定する必要があり、一つの統計が正しく行われていなかったことをもってして政府統計のすべてがおかしいという対応はすべきではないだろう。

政府統計全体がどの程度の信頼性を持っているのかを統計委員会は検証しているが、すでに56の基幹統計に不正があったと報告されている。しかしながら、その不正にはかなり程度差があり、すべてを一緒にして論じることはできない。

たとえば、毎月勤労統計のような結果に重大な影響を与える標本設計に関する不正から、全国消費実態調査のような想定していた集計表を作らなかったという不正までがあげられるが、集計表を作らなかったという手続き上の不正がこれまでの研究や政策論議の土台に与えるインパクトはないといってもよいだろう。

深刻なのは予定されていた標本設計と実際の標本設計がずれていた毎月勤労統計のようなケースであるが、そのようなケースは今回の56の報告の中では限定的であったように見受けられる。

予断を許すべきではないが、今後統計委員会の中に立ち上がった検証委員会(私も専門委員を務めている)でしっかりとした検討が行われていくべきことであろう。

 

問題の広がりを画定したうえで、再発防止策を考える必要がある。毎月勤労統計のサンプリング不正が報道されたときにまず感じたのは毎月勤労統計の個票があまり労働経済学者に使われていないことである。

個票というのは集計される前の政府が集めた生のデータであるが、政府統計の個票は統計法の定める手続きに従って、研究に公益性があることや情報漏洩などが発生しないような対策が講じられていることなど一定の条件が満たされていることを前提にして、研究者に提供されている。

この個票が研究者に提供されることは統計作成当局にとっては外部の目が入るきっかけになる。

一般的に言って、政府が集めた個人や企業のデータを集計する過程に誤りがあったとしても、その誤りを外部の者が見つけ出すのは難しい。

今回の毎月勤労統計のケースは、全数調査が前提とされているところで、抽出調査でなければ起こりえない現象が確認されたことが問題発見の糸口となったのだが、かなり特殊なケースだ。

このような特殊ケースを除けば、政府当局が公表しているとおりに正しく統計処理を行っているかどうかを確認するための手段は外部の研究者が個票を利用すること以外にはないだろう。

例えば、今回の毎月勤労統計の例のように、東京都の500人以上事業所の数が突然3分の1になるような変化があり、それが公表されておらず、ウエイトも直っていないようなことがあれば、個票データを使っている研究者が異常に気付き、厚生労働省に問い合わせを行った可能性もある。

政府が集めているデータは税を用いて集められた公共財であり、それを一定の手続きに従って使えるようにし、多くの研究者が研究目的に個票を遣えるような環境を整えることが再発防止という観点からは重要である。

前述の通り一定の条件を満たすと研究者が個票にアクセスできる機会は法的に担保されているが、手続きが煩雑で時間がかかり利用申請をしてから実際にデータを入手するまでに半年以上かかるケースが大半である。運用ルールの見直しが必要であろう。