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脳と心は同じもの?人類最大の謎「意識のハードプロブレム」とは何か

「物質と非物質の関係」という難問

脳がわかると、心もわかる?

「ついに心の仕組みが解明された」

こんな一文を目にしたら、なにが思い浮かぶだろう。あるいはなにを期待するだろう。人それぞれ、「心」という言葉を日頃どう使っているかによると思う。例えばこんなふうに。

「えっ? ってことは、いつも気になってるあの人がなにを考えてるかも分かるのかな(表情とか言葉だけだと心の中まで分からないけど)」

「感情とか記憶とか知能とか意欲とか、いろんな心の働きの仕組みが解明されたのかな」

「そもそも心って、なんだか分かったような分からないようなものだけど、正体が突き止められたのかな。心ってなんだ?」

その他、あなたが「心」という言葉でなにを連想するかによって、思い浮かぶことはいろいろあるだろう。それにしても、「心の仕組みが解明される」とはどういう状態だろう。

 

ではもうひとつ質問。「ついに人間の脳のしくみが解明された」というニュースならどうか。この場合、どんな状態を想像するだろう。これもやはり、その人が「脳」という言葉を日頃どんなふうに使っているかによると思う。

「神経細胞のつながりや働きが、すっかり分かったのか」

「脳にいいとか悪いとかいう宣伝文句の真偽もはっきりしそうね」

「脳が丸わかりになったということは、心もすっかり分かっちゃうってことかな」

心が直に目に見えないのと比べて、脳は体の一部をなす器官、物質だ。脳の写真や模型やイラストを見たことがあれば、その姿形を思い浮かべられるだろう。目に見えるだけ捉えどころがあるように感じるかもしれない。

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いま「心」と「脳」に分けて質問してみた。ではさらに、もうひとつ質問。心と脳は同じものだろうか、それとも違うなにかだろうか。「心が解明される」のと「脳が解明される」のは同じことだろうか。それとも違うことだろうか。

くどいようだけれど、これもまた人によって意見が分かれるところだと思う。

(1)脳が解明されたなら、心も解明されたということになる。

(2)心が解明されたなら、脳も解明されたということになる。

(3)心の解明と脳の解明は別のことだ。

(1)と(2)は、心と脳を同一視する立場だ。実際、神経科学(脳科学とも)の分野では、脳の仕組みのほうから心を理解しようとする試みも進められているところ。中には人がなにかを美しいと感じる状態を脳の仕組みから捉えようとする神経美学や、言語を使う人間の仕組みを脳から探る神経言語学をはじめ、脳の観点から人間の行動を見ようとする試みがさまざまになされている。

それに対して(3)は、心と脳は必ずしも等しくないという見方だ。この場合、ここから難しい問題が生じてくる。では、心と脳が別のなにかだとしたら、両者はどのように関係しあっているのか。

この問いは「心脳問題」という難問として知られる。本稿では、この「人類最大の難問」をめぐる旅にみなさんをお招きしたい。