結婚に拘らなくてもいい時代だけど、あえて「結婚する」意味を考えた

中江有里著『残り物には、過去がある』
中江 有里 プロフィール

赤の他人に救われる瞬間がある

―第1章「祝辞」は、新婦・早紀の「小学生時代の友人」として招かれる栄子の目線から描かれます。ところが、栄子は、とある理由から過去と決別し、式に友人を呼ぶことができない早紀に雇われた「レンタル友だち」。早紀とはまったく面識がありません。

栄子は一見するとごく普通の妻。けれど実は不妊治療中で、妊活費用をまかなうため、「レンタル友だち」の仕事をしています。夫婦仲は悪くはないけれど、子宝の吉報が届かず疲弊していくなかで、夫と本音で話し合えなくなっている。

そんな悩ましい状況で結婚式に参加した栄子は、不釣り合いな新郎新婦の姿を見て、「お金と顔の交換」と感じるなど、彼女たちを突き放した目線で眺めています。

ところが、複雑な事情を抱えながら式を迎え、不安をこらえている早紀の姿がだんだんと自分に重なってくるのです。

 

―祝辞役を任せられた栄子は、不慮の事故により、即興で祝辞を語ることになり、気づけば自身の不妊治療の話をもとに、早紀へとエールを送ります。一人の女性の実感のこもった言葉に、読んでいる側も思わず心を揺さぶられます。

常識的に考えたら、祝辞の場で不妊治療の話を持ち出すなんて、怒られてもおかしくないですよね。でも、栄子が早紀に本心からのメッセージを送るとしたら、いま自分が一番悩んでいる不妊治療の話は避けては通れない。計算ずくではない、栄子の心からの「気持ち」を表現したかったのです。

人生には、さっきまでは赤の他人だった人たちが、救い、救われる瞬間がありますね。そういう関係を、レンタル友達である早紀と栄子を通じて描き出したかったのです。

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―物語の中盤から終盤にかけて、友之と早紀の複雑な事情が次々と明らかになっていきます。友之がかつて夫のある女性と恋愛していたこと、早紀が両親を亡くしていること……。人は誰しも、他人には窺い知れない過去を抱えている。そんなことを考えさせられます。

早紀も友之も、巡り会うまでの人生でたくさん傷ついてきている。そもそも二人の出会いからして、あるトラブルに巻き込まれた早紀を、友之が助け出したことがきっかけです。たくさんの傷を抱えた二人は、恋愛をきっかけとした「普通の結婚」とは異なる、彼らなりの結婚を選択します。

この二人の特殊な関係を通じて描きたかったのは、「人は、いかにして人間関係の苦しみから解放されるのか」ということです。

結婚するときは、誰しも「二人で幸せになりたい」という思いを抱いているはず。ですが、時間が経つと、いつしか自己愛が相手への愛を上回ってしまい、不満がたまって関係がこじれてしまう。

そういうことを考えたとき、無償の愛である友情をもとにした結婚があってもいいと思ったのです。友人は、恋人に比べたら、どこか距離がある関係で、相手に対して担う責任は小さい。

けれど、自分の考えを押し付けたりせずに、相手の考えを尊重しようとします。そういう関係なら、人間関係のこじれも解きほぐれるのではないでしょうか。そういう意味で、愛にもいろいろな形があっていいと思うのです。

―実際、早紀と友之は手を差しのべあい、彼らなりの形の愛で、お互いを受け入れていきます。

今は結婚にこだわらずとも、「個」で生きられる時代。それでも、中島みゆきさんの歌『誕生』にあるように「だれか」と生きると人生は「はるかに違う」ものになるのも、また確か。友之と早紀が、結婚にどんな可能性を見出していくのか。そこを楽しみに読み進めていただけたらと思います。(取材・文/窪木淳子)

『週刊現代』2019年3月16日号より