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結婚に拘らなくてもいい時代だけど、あえて「結婚する」意味を考えた

中江有里著『残り物には、過去がある』

心を「浄化」する不思議な儀式

―中江さんの6年ぶりの小説『残りものには、過去がある』は、あるカップルの挙式披露宴をめぐる連作短編集です。

新郎新婦の二人をはじめ、式に参加している6人の登場人物たちのそれぞれの物語が少しずつ重なりあっていく構成になっています。

私は結婚式に参列するのが大好きなのですが、行くたびにユニークな儀式だとつくづく思います。だって、成人式や葬式をはじめ人生には何度か儀式があるけれど、自分たちで一から計画して、自分たちでお祝いをする「自作自演の宴」って、結婚式のほかにはなかなかないですよね(笑)。

 

式の参加者のなかには、義理で出席する人や、何らかの事情を抱えて出席せざるをえない人もいて、それぞれの胸中はきっと複雑でしょう。それでも、式の最中は各テーブルの席について、澄んだ気持ちで祝福をする。仮初めとはいえ、人々の心を「浄化」するこの不思議な儀式は、小説の恰好の舞台になると思いました。

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―結婚するのは二代目社長でカバのような見た目の伊勢田友之(47歳)と、妖精のような美貌を持つ従業員・鈴本早紀(29歳)。

容姿も立場も年齢も不釣り合いなこの二人がなぜ結ばれることになったのか。その謎が章を追うにつれ次第に明らかになっていく展開は、読み応えがあります。

最初から各話をリンクさせる構想があったわけではないのですが、改めて読み返すと、新郎新婦と関係の遠い人から始まってだんだんと関係の近い人の物語へと進み、徐々に二人の関係の核心へと迫っていく展開にできたと思います。

今作のような連作短編の場合、最初からある程度の形を決めて取り掛からねばいけない長編と比べて、新しいアイディアや執筆中の自分自身の変化を素直に盛り込むことができるので、伸び伸びと書き進められました。