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私には何も遺してくれなかったと思っていた母からの「驚きの遺言」

新・争う族の現場から⑥

疎遠な母の死と遺言

川端正子さん(仮名、以下登場人物は全員仮名)は名古屋の幼稚園で働く主任教諭です。日々、2人の子供を育てながら、幼稚園で働く忙しい日々を過ごしています。そんな川端さんに、ある日、弟の史郎さんから連絡がありました。

「ついに母が亡くなった。」

東京に住む母は72歳。既に父は10年前に亡くなっています。

川端さんはその日のうちに慌てて支度をし、東京の実家に戻りました。弟夫婦は実家のそばに暮らしており、母の見舞いや雑多な業務も行っていましたが、葬儀の手配も既に終えていました。

葬儀も無事に終わり、一息ついた時、弟から「お母さんが遺言を遺していたらしい」と聞かされます。

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一瞬、川端さんは弟の言葉に耳を疑いました。

川端さんの知っている母は、家事もほとんどせず、いつもお酒ばかり飲んでいるイメージしかありません。そんな母が、きちんと遺言を作っていたなんて信じられなかったのです。

弟は「遺言の作成・執行はお母さんがプロの人に頼んであったみたいで、僕たちはその内容に基本的に関知できない。遺言通りに財産分割するだけだそうだ」と言います。

川端さんは「え?お母さんの財産分割に関してなんで子供の私たちが決められないの?そんなの納得いかないわ!」と弟に詰め寄ります。

「そんなこと言ったって俺、知らないし。遺言執行者の人たちに聞いてみなよ」というばかりでらちがあきません。

 

そこで、その遺言執行者のオフィスを訪問するアポイントを取ったものの、何となく釈然としない正子さん。

ふと学生時代はよく母親の服を借りていたことを思い出し、今でも着ることが出来そうな母親のコートをいくつか見繕って自分の家に持って帰り、不必要なコートは弟に何も言わずインターネット上のフリーマーケットで売却してしまいました。

川端さん姉弟は小さいころまでは仲が良かったものの、物心つくころには仲の悪い姉弟になっていました。

それは姉のエキセントリックな性格が多分に影響していることでした。中学生のころの川端さんは、学校や部活で嫌なことがあると、すぐ当時小学校低学年の弟にあたるような性格でした。

例えば、川端さんは学校に行く前に、筆記用具がないことに気づきます。遅刻したくないため、たまたま傍に置いてあった弟の筆箱を勝手に借りて学校に行ったりすることもありました。

弟はいつも「僕のものがない!」と部屋中を探しますが当然見つかるはずがありません。後日、姉の部屋や姉の鞄に自分のものを発見するのがお決まりだったのです。

しかし、そんな自分勝手をしても川端さんは全く悪びれる様子がありません。弟は基本的に温厚な性格でしたが、度重なる姉の理不尽な行動に、さすがの弟も愛想を尽かし、ふたりの仲は険悪になっていったのです。

そんなふたりを心配して親が説教をすることもありましたが、川端さんは自分が悪いとはまったく思っていません。それどころか「弟は怒りっぽい!なんでお母さんはいつも弟の見方ばかりしているの!?えこひいきだよ!」と、逆ギレする始末です。

もともと母と弟は近い関係でしたし、唯一川端さんの味方であるお父さんが他界してしまった後は「実家に帰ってもつまらない」と、家族とも疎遠になっていったのです。

そんなときに起きた母の死と遺言の存在。当然、川端さんが心配したのは、母と仲の良かった弟に財産を取られてしまうことでした。