ブレクジットの背後でうごめく「帝国2.0」という奇妙な思想

「アングロスフィア」を夢想する人々
馬路 智仁 プロフィール

J.A. ホブスンは、19世紀末から20世紀初めに登場した「ニューリベラリズム」と呼ばれる思潮を牽引した理論家の一人である。彼のグレーター・ブリテン構想は、よりニュアンスに富んでいる。『帝国主義論』(Imperialism, 1902年)によって金融資本主義を動力とするイギリスの帝国主義を批判したことで知られるホブスンは、しかし一方で、海外移住植民地の建設については文明の伝播を促進するものとして擁護していた。

そうした議論を展開する中でホブスンは、シーリーと同じように、イギリス本国と移住植民地の人々が共有する血統や言語の意義を強調する。しかし、シーリーと異なり巨大連邦国家の実現には懐疑的な立場をとった。

 

興味深いことに、ホブスンは連邦政府のような硬質な制度を構築せずとも——さらにたとえ移住植民地が独立し、イギリスと対等な主権国家となったとしても——移住植民地とイギリス本国の間の精神的紐帯が傷つくことは決して無いだろうと主張する。印象的な一節を引用しよう。

「〔エドマンド・〕バークは書いた、『私が植民地を把握する力は、共通の家名、同族の血統、同様な特権、および平等な保護から生ずるところの親密な愛情である。これらのものは、空気のように軽いけれども、鉄の鎖のように強力な絆である』、と。……こうした心の真の結合(true union of hearts)は、過去において起こってきた政治的自由への進歩によって弱められることは無かったし、また、たとえイギリスからの完全な政治的独立が達成されるまでこの進歩が続くとしても、それが弱められることは無いであろう」(『帝国主義論』第2部第6章)

「心の真の結合」という夢想

『ペル・メル・ガゼット』紙のジャーナリスト、W.T. ステッドはきわめて野心的に、アメリカ合衆国を含めた地球上の英語圏諸国全てを一つの国家として統合すべきことを提唱した。

アメリカによるフィリピン領有後の著作『世界のアメリカ化』(The Americanization of the World, 1901年)の中で、彼はそれを「英語圏世界の合衆国」(the United States of the English-speaking World)と名づける。

しかしステッドはその後、1912年のタイタニック号の沈没によって北大西洋の中に命を落とし、それとともに大洋横断的な巨大合衆国の夢も歴史の中に埋没していく。

イギリスとそのかつての移住植民地、さらにはアメリカ合衆国の間の緊密な統合を訴える今日のCANZUK連合やアングロスフィア論は、このような一世紀以上昔のグレーター・ブリテン構想を不思議と彷彿とさせる。両者は世紀を跨いで、地理的規模や野心さ・幻想さの度合いを明らかに共有しているのである。

ホブスンは、おおむねイギリス本国側の視点から、イギリスと移住植民地の間の精神的・感情的紐帯を「心の真の結合」と表現した。歴史的に本国ブリテン島のエリート層が、地球に散らばる移住植民地——英語圏諸国・「同胞」——に向けて投射してきたこのような観念あるいは夢想が、21世紀になってもいまだ消えていないということなのだろうか……。