起きそうもないことが起きてしまう、この社会ってなに?

戦後日本、封建社会、共産主義…
大澤 真幸 プロフィール

偶有性についてはいずれまた説明しますけれども、「必然的ではない」という、必然性の否定であるのと同時に、可能であること、つまり不可能性の否定です。

偶有性とは、必然ではないが、不可能ではないこと、です。現にあるけれども、必然には見えないことは偶有的です。だから、「他でもあり得たのに」という感覚があるのが、偶有性のポイントです。

「Xはいかにして可能か」という問いは、実は、Xが偶有的なものに見えていることが重要です。Xは他でもあり得たのに、なぜこういうことになってしまったのか、ということです。

少し気取った言い方をすれば、現実の社会秩序に他性を対置する認識なしに、社会秩序はいかにして可能か、という問いはでてきません。言い換えれば、社会学を成立させているのは、通常のものの「不確実性」(ありそうもない)の感覚なのです。

さて、これだけのことをはっきりさせたうえで、いよいよ本格的に社会学の歴史について話を始めましょう。

《『社会学史』目次》
序 社会学に固有の主題
社会学の社会学/「直進する学問」「反復する学問」/社会学史の三つの山/マックス・ヴェーバーの病/フロイト的な典型/社会学的憂鬱/社会学的な問い──社会秩序はいかにして可能か/二つの部分問題
Ⅰ 社会学の誕生──近代の自己意識として
1・古代の社会理論 アリストテレス
人間は政治的動物である/友愛関係と敵対関係/序列化された社会/まだ社会学はない
2・社会契約の思想 社会学前夜
2−1 自然法の理論 グロティウスとパスカル
自然法/「神が存在しないとしても」/パスカルの賭け
2−2 ホッブズの社会契約
「万人の万人に対する闘争」から/社会契約の現実/「ホッブズ問題」/神を前提にするかどうか/ロックの抵抗権/ホッブズの一貫性/ゲームの理論で考える/「自然状態」とは「犯罪」/法とは「普遍化された犯罪」である?
2−3 ルソーの社会契約
自由と鎖/なぜ全員一致が成り立つのか/コンドルセの定理/一般意志を導くための三つの条件/ルソー的感覚/透明性の回帰/「ルソー問題」/アダム・スミスの「共感」
3・社会科学の誕生
3−1 文科と理科の離婚
神学からの真理の解放/二つの文化
3−2 社会科学の社会的起原
フランス革命のインパクト/最初の社会科学としての歴史学/近代を探究する諸社会科学 経済学・政治学・社会学/近代の外部を受け持つ社会科学 人類学・東洋学
3−3 社会学の名付け親
オーギュスト・コント/サン=シモンからコントへ/学問の地図
3−4 社会進化論
進化論の逆輸入/文明化の理論/スペンサーの自由主義/社会学をバ勉強し
4・マルクス──宗教としての資本主義
4−1 革命的亡命者
カール・マルクスの生涯/エンゲルスの貢献
4−2 物象化の論理
土台/上部構造/商品形態と近代的世界観/すべてのものが商品になる社会/疎外と物象化/フォイエルバッハの「疎外」論/人と人との関係へ/価値形態論/AとBの非対称性/信じていないのに信じている
4−3 宗教としての資本主義
敬虔なる守銭奴/神としての剰余価値/守銭奴から資本家へ/階級とは何か
Ⅱ 社会の発見
1・フロイト 無意識の発見
1−1 無意識の発見者
社会学者フロイト/臨床医フロイト
1−2 エディプス・コンプレックス
エディプス/去勢コンプレックス/シニフィアンとシニフィエ/特権的なシニフィアン/トーテムとタブー/自我・エス・超自我
1−3 死の欲動
モーセ殺害/父は二度死ぬ/快感原則を越えて
2・デュルケーム 社会の発見
2−1 方法の確立
無意識のありか/社会学の大学教授/方法の自覚
2−2 物としての社会
『自殺論』のモチーフ/社会的自殺の三類型/アノミー的自殺と近代社会/社会は物である
2−3 分業から宗教へ
正常な分業と異常な分業/宗教=社会/階級と分業
3・ジンメル 相互行為としての社会
3−1 都市的感性
またしてもユダヤ人/都市的感性/社会分化/結合と分離
3−2 相互行為の形式
社交と社会/橋と扉/秘密という現象/三人結合
3−3 貨幣論
ルソーとの対比/マルクスとの対比/貨幣の哲学/十八世紀の自由/十九世紀の自由
4・ヴェーバー 合理化の逆説
4−1 神経症
順調な人生/リベラルなナショナリスト/息子が父を裁く/社会学者としての再生
4−2 社会学の方法
価値自由──天使であれ/理念型──人間であれ/社会学の定義
4−3 合理化
「ただ西洋においてのみ」/支配の正統性/合法的支配の合理性/脱呪術化/人間と神々の関係の循環/Ratio/ピタゴラスの定理と自己言及/音楽の合理化
4−4 予定説の逆説
二種類の合理性/資本主義の精神と召命/不可解な予定説の効果/謎の理論物理学者/ゲーム状況の導入/予見者を入れる/禁欲的プロテスタントの無意識的推論/神が全知であるかのように行動する/非合理性と合理性/気まぐれな神の選択/ヴェーバーとデュルケーム──「個人を越えた社会現象」
4−5 政治家の責任倫理と社会学者の鬱
信条倫理と責任倫理/天使と神
Ⅲ システムと意味
1・パーソンズ 機能主義の定式化
1−1 社会学、アメリカへ渡る
アメリカ社会学の勃興/最初の移民の精神の研究/アメリカ移民の第二波/トマスの定理/「逮捕」されたトマス/実証研究としての都市社会学
1−2 社会学固有の主題の自覚
パーソンズの機能主義/功利主義という敵/功利主義では解けない問題
1−3 主意主義的行為理論
二つの系譜──実証主義と理念主義/行為の準拠枠/「それ」は解決されたか
1−4 構造─機能理論
社会システムとは何か/パターン変数/ゲマインシャフトとゲゼルシャフト/構造─機能分析の論理/AGIL図式/社会進化の理論
1−5 機能主義批判
政治的批判/複数の機能的要件の集計/社会変動の説明の不可能性
1−6 潜在的機能
中範囲の理論/『プロ倫』の機能主義的解釈/顕在的機能・潜在的機能
2・〈意味〉の社会学
2−1 〈意味〉の社会学、その前史
〈意味〉の社会学/ミードの「自我」理論/シンボリック相互作用論
2−2 シュッツと現象学的社会学
銀行マンにして社会学者/社会的世界の意味構成/他人の心がどうして私にわかるのか/同心円状に並ぶ世界/レリヴァンス、多元的現実/新しい知識社会学
2−3 ミクロ社会学
エスノメソドロジー/会話分析/演技としての相互作用──ゴフマン/ルソーとゴフマンの距離/ラべリング理論
2−4 〈意味〉と〈機能〉
ただの相互の反発だけか?/「夫の世話に苦しむ妻」の「美しい魂」/役割距離の可能条件/葬式と原罪/〈意味〉と〈機能〉の相補性
3・意味構成的なシステムの理論 ルーマンとフーコー
3−1 構造主義とその批判者たち
構造主義と機能主義/親族の基本構造──第一の問い/親族の基本構造──第二の問い/三色スミレとともにやってきた/冷たい社会と熱い社会/構造には中心がある/「共産主義の地平では」/音声の中心性/音声ではなく「文字」/ブルデューの「ハビトゥス」論/ディスタンクシオンを説明する/構造は「行為の惰性化」か?
3−2 意味構成システムとしての社会
官僚から転身したルーマン/批判的社会理論/ハーバーマスのコミュニケーション的行為論/ハーバーマス=ルーマン論争/体験加工の形式/「意味」の三つの次元/コミュニケーションの構造/とても人間的なシーン/「システムと環境」という区別/インプットもアウトプットもない/オートポイエーシス・システムとしての社会/複雑性の縮減と増大/社会進化の三つの段階/二重の偶有性/「普遍化された犯罪」としての秩序?/機能─構造主義/ラディカルな構成主義/ラディカルなアイロニズム
3−3 言説と権力
アメリカで受けた人と受けなかった人/フーコーの研究の三つの段階/「エピステーメー」の不連続的変化/先験的かつ経験的な二重体/言説の分析/「存在論的線引き」の問題/権力の分析/規律訓練型権力/生権力の系譜学/抵抗の拠点はどこに/自己への配慮/パレーシア/ソクラテスの「政治不参加」/ほどほどの告白
3−4 神の受肉のように……
社会学理論のツインピークス/ユダヤ教のように/神も人間と同じように弱い
4・社会学の未来に向けて
4−1 現代社会学の諸潮流
後期近代の自己意識たち/家族型による決定論
4−2 新しい実在論から社会学へ
思弁的実在論/神の存在の存在論的証明のように/偶有性と社会性/失敗を通じての変革
おわりに
索 引