日本が「都合のいい外国人」を求め続けてきた30年を振り返る

Session-22✖️現代ビジネス
荻上 チキ, 山口 元一

人権が「政府の裁量」で決められる

チキ どのような人権を認めるかどうかは、政府が、具体的には法務省などが裁量で決めることができる、と。たとえば、いま入管や施設で人権侵害状態に置かれている外国人に関しても、「在留資格を失っている人たちなので人権の対象ではない」という主張も成立してしまうわけですよね。

山口 そうですね。今の日本では成立し得ます。

チキ 実際そういう解釈が可能かどうかはともかく、実行しているとは言えるのでしょうか。

山口 実行していると言われてもしかたない部分がありますね。

たとえば、外国人で日本人と婚姻している方がいるとしましょう。婚姻している場合、夫婦で同居するというのは、人権として国際条約でも認められています。しかし日本の政府、裁判所の解釈は、夫婦が同居する権利がないとは言わない、ただし外国人在留制度というのはそれよりも上位に位置しているんだ、ということなんです。

だから、日本が定めた外国人在留制度の下で、強制送還の原因になる事実があると認められたら、それが優先で、「婚姻」という事情があっても同居が認められず、強制送還ができる、それは合法だ、ということです。国際的にはかなり特異な解釈ですが、外国人が在留するに際してどのような条件をつけるか、国は自由に決められる。それが、今の日本の法律の考え方です。

チキ 今回の法律の中身に関わらず、40年前からある考え方というわけですね。

さて、山口さんは長年、外国人の人権問題について裁判をされています。その経験からすると、法務省及び入管は、どれだけ日本で(外国人の)子供に教育が必要だろうが、親子の絆が重要だろうが、情状酌量の余地があろうが、在留資格を外れていれば追い返すという方向で一貫しているわけですよね。

山口 そうですね。追い返すか、追い返さないかは、法律の決め方であれ、具体的な処分であれ、基本的に日本が自由に決めることができる。これが日本の法律の考え方ですね。

 

日本はどんな外国人を求めてきたか

チキ では次に、日本が求めてきた外国人像、外国人労働者像と言うのはどんなものだったんでしょうか。

山口 結論めいたことを最初に言ってしまうと、一つめは、「より安価な労働力としての外国人」ということです。低賃金で働いてくれる外国人ですね。

二番目は、なるべく滞在が長期化しない、「定住しない外国人」ということですね。言わば「確実に帰ってくれる人」です。それはなぜか。長期間日本に滞在すると、外国人も社会的に地位上昇をします。いつまでも低賃金で働いてくれるわけではなくなってしまう。また、定住すれば、教育や医療、場合によっては生活保護などの福祉のコストがかかる。その負担を避けるため、「定住しない」外国人を求めてきました。

三番目は、一番目と二番目を達成するための手段で、「より管理の行き届いた外国人」であるということ。外国人に定住をさせず、滞在を長期化させないようにするためには、彼らの生活を隅々まで管理する必要がある。

結婚、転職、住居の変更といった生活の変化について細かく報告義務を課し、情報をすべて管理して、入管の定めた条件に違反すればすぐに制裁を与えて追放可能とする状況が求められているということです。それが「より管理の行き届いた外国人」という側面です。

その3つの柱――①より安価であること、②滞在が長期化しない、定住化しないこと、③より管理の行き届いていること――については、1990年改正以降の改正の経緯から推測される部分もありますが、2006年に法務省のプロジェクトチームが作成した文章のなかで、①について「より安く」と明示はしていませんが、②については、専門的分野以外の外国人の受入にあたっては「滞在の長期化、定住化に伴う、教育、医療、福祉、治安その他の社会的コストが増大しないようにすることが必要」と、③については「在留管理の強化が不可欠」と明記されています。

私が悪意をもって言っているわけではないのです。

チキ 今の国会でも、やはりその3つの柱は維持されたまま、これを逸脱しません。「逸脱したら移民政策になるから、それはしませんよね」という突き上げを、自民党の党内からも受けている状況です。

山口 その通りだと思います。

今回、その在留資格、外国人について新しい在留資格をつくって「外国人労働者」を正面から受け入れようという議論が始まりました。これにもやはり過去の改正に伏線があります。

2012年に入管法が大幅に改正されて、新しい在留管理制度ができた。新しい制度のもとで離婚、転居、転職等、外国人の生活上のあらゆるイベント、一挙手一投足を入管が管理し、届出義務の違反等に制裁を与えることができるシステムができました。そのシステムができたからこそ――要するに定住化させず、確実に帰すことができるという環境が整ったからこそ、新しい外国人労働者を受け入れてもいい、と。そういう流れで今度の法律ができているわけですね。

チキ もともと管理を行き届かせようという思想があり、ここ数年で実際に管理システムが強化された。今ならキチンと管理できるし、必要があれば追い返せるという自信があるから受け入れるということになるんですね。

山口 まさにその通りだと思います。