元経済ヤクザが地下情報から読み解く「米朝会談決裂の深層」

核と暴力とアンダーグラウンドと
猫組長(菅原潮) プロフィール

核は誰のためにあるのか

一方の金正恩氏も、大きなジレンマを抱えていた。

国連安全保障委員会による北朝鮮への制裁は、2006年の核実験に対する決議1718から始まり、現在まで11の制裁が決議されている。特に、16年の決議2321は、原油・石油精製品の北朝鮮への輸出に初めて上限が設けられた。

韓国貿易投資振興公社の発表によれば、17年の北朝鮮の貿易総額は55億5千万ドル(約6130億円)で前年比15%減(対韓国貿易を除く)、対外輸出は約17億7000万ドル(約1950億円)で、前年比37・2%も減少したというから、効果は絶大だ。経済制裁の効果を疑う声もあるが、今回の会談で金正恩氏自身が制裁解除を申し出たことは、その反証と言えるだろう。

 

貧困に喘ぐ北朝鮮に対してトランプ氏は、両日の会談冒頭で「彼らは経済的な大国になる」「北朝鮮は経済大国になることができる」と救済を持ちかけた。国際舞台でのトップの発言は、口約束では収まらない。核さえ放棄すれば、制裁解除どころか、経済発展に向けた大きな開発投資をする、というのが発言の真意と言えるだろう。

対する金正恩氏自身は初日の夕食会で「(核兵器を)一度にすべてを手放すほどの信頼構築ができていない」としながら、2日目の会談冒頭、記者から非核化の意思を問われ、「なければ今ここにいない」と答えている。

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経済面で逼迫していることから、「意思がありながら一度に手放すことはできない」というのは、北朝鮮が外交面で見せてきた引き延ばし戦略と同じものだとは考えにくい。この発言の真意を導き出すには、金正恩氏にとっての「核兵器」が、何に対して保有されているものなのかを考えなければならないだろう。

核は何のために?

戦争とは国富略奪の暴力的経済活動だ。ある場合は石油であり、ある場合は領土となる。北朝鮮の核は日本に向けられていると思う人は多いだろう。しかし資源のない日本の国富は、国中に張り巡らされた道路、鉄道、ダム、発電施設などのインフラと、高等教育を受けた大量の労働者だ。

核を使うということは、本来奪うべき国富を亡ぼすことになるのだから、日本に対する核使用はありえない。金正恩氏が日本を攻撃するために核を保有している、という可能性は、闇の住人の合理的思考のもとでは消える。

一方、北朝鮮と休戦中の韓国も、日本ほどの規模やレベルではないにせよ、国富を持っている。したがって、韓国に核を使うこともナンセンスと言えるだろう。

中国については論外だ。毛沢東が、全面核戦争で人類の半分が死滅しても、「中国の人口は6億だが、半分が消えてもなお3億がいる」と発言したように、命の軽いあの国に北朝鮮クラスの「小さな核の脅し」は効かない。何より米ロ間の中距離核戦力全廃条約の条約外国家として、大量の核兵器を生産・保有した中国に核を使用すれば、国ごと消滅させられるだろう。

唯一核を残す理由は「他国からの侵略阻止」となるが、核を放棄すれば、アメリカは経済援助を行うと約束している。アメリカが経済援助を約束した以上、すでに北朝鮮は「侵略阻止のために核を保有する」という理由を失っている(無論、アメリカが信用できないという理由はあるだろうが、であれば、米朝会談などそもそも行う理由がなくなってしまう。核を保有しながらの制裁解除・経済支援があり得ないことは、金正恩氏が一番わかっていたはずだ)。