元経済ヤクザが地下情報から読み解く「米朝会談決裂の深層」

核と暴力とアンダーグラウンドと
猫組長(菅原潮) プロフィール

トランプが引くに引けない理由

ドイツからアメリカへ移民として渡ったトランプ氏の祖父は、新大陸で成功し財をなす。トランプ氏の父、フレッド・トランプ氏はニューヨークのブロンクス区で生まれ、15歳(1920年)から不動産業と建築業を始め、トランプ家の財をさらに大きなものとした。

「1920年」とはいわゆる「禁酒法」が施行された年で、密造酒という巨大な収入源を得たマフィアは、急速にその勢力を拡大させていく。トランプ氏の父が不動産開発業を始めた年こそ「マフィア元年」と呼ぶべき、暗黒街のメモリアルイヤーだ。

密造酒が陸揚げされるニューヨークと、それを内陸に運ぶ際の中継地点であるシカゴはマフィアの二大拠点となった。知人のロシアン・マフィアは「この時期のニューヨークの不動産開発は、マフィアとの接点抜きでは考えられない」と言う。

33年の禁酒法廃止に伴い、マフィアは酒の取引から麻薬ビジネスへと経済活動の中心を移し、莫大な資本を背景に、カジノ、ホテル経営、不動産業へと進出する。その純益は当時のGM(ゼネラル・モータース)の年間売り上げより大きい、600億ドルもあると報じられたほどだ。

46年生まれのトランプ氏は、アイビー・リーグ(東海岸の裕福な私立エリート校)の一つ、ペンシルバニア大学を卒業後、父の会社に勤める。70年代からは、父の財力を使い、ニューヨーク州を中心にオフィスビル、ホテル、カジノ経営などを手がける。80年代にはビジネスを大きく伸ばし「不動産王」の異名をとるまでになった。

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トランプ氏とマフィアのビジネスには共通項が多いが、88年に行われた裁判で両者の関係は明らかになる。トランプ氏の躍進した80年代、マフィアもニューヨーク市の大型建設事業に食い込んでおり、彼らの逮捕が相次ぐ。トランプ・プラザの建設契約から利益を着服し、有罪判決を受けた一人こそ、ユーヨークの暗黒街を統治する5大マフィアの一つ「ジェノヴェーゼ・ファミリー」のボス、アンソニー・サレルノだ。

知人のロシアン・マフィアは「トランプが父から財だけではなく、暗黒街との繋がりも受け継いだ可能性がある」と教えてくれた。

 

トランプ氏との「接点」

トランプ氏と暗黒街の接点が、単なる都市伝説ではないことは、他ならぬ当人が認めていることだ。WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)は、トランプ氏が2016年大統領選の有力候補となった時に、本人を直撃。15年12月15日の『トランプ氏とマフィアの関係、早急な調査を』の記事中で、過去に本人がマフィア系のコンクリート会社を使ったことを認めながら、答えた肉声をこう報じている。

「この人たちは優れた請負業者だった。彼らは驚異的だった。彼らは1週間に3フロアをコンクリートで固めることができたのだ。世界の誰も1週間で3フロアはできない(略)彼らはそれ(コンクリートの型枠)を設置して(コンクリートを)流す。そしてコンクリートが乾く前には鉄骨からフロアの型枠を外してしまうのだ」

「彼らは業務をこなすという点で信じられないほど優れた請負業者だった。ただ、彼らの多くはモブと関係していたと思われる」

ここで言う「モブ」(MOB)とは、「mobster」(暴力団員)の略で、マフィアの構成員を指す隠語である。

はたしてトランプ氏とマフィアの繋がりは切れているのか――その疑問の回答は、2016年大統領選にある。当時、トランプ氏と暗黒街との関係は、世界の地下経済人たちのホットニュースだった。

アメリカのマフィアは、戦後米国各地で労働運動が盛り上がった際、労使双方に接近。暴力を背景にした調停役として双方に影響力を行使した。以来、アメリカの労働組合に広く影響力を持つようになった。

工業地帯「ラストベルト」の労働者がトランプ大統領誕生の原動力とされているが、この時「トランプが当選した方が潤うと判断したマフィアが労働組合に働きかけ、集票に動いた」というのは、暗黒街の定説だ。2020年の大統領選を考えれば、トランプ氏にとって「巨大な黒い票田」は無視できない存在といえるだろう。

いまもまだトランプ氏と暗黒街のつながりがあるのかは判然としないが、世界的ネットワークを持つこのロシアン・マフィアは「昨年の米朝会談以後、トランプ氏と縁のある企業が北朝鮮に進出したことは間違いない」と断ずるのだ。

もちろん、アメリカ自体が北朝鮮に厳しい経済制裁を課しているなかで、表立って北朝鮮に「進出」することはできない。必然、進出した企業は「裏社会の企業」ということになる(この点は日本も同じである)。

つまり、アメリカの闇の住人たちの一部は、北朝鮮の市場開放を見越して、すでに先行投資を行っているのだ。そのようななかで米朝が決別することは、命を持って失敗を償うアメリカの暗黒街にとって許されざることだ。

トランプ氏を大統領にする原動力として機能した、父の代から繋がりのある「暗黒街」の住人たちが、「会談が決裂したとしても、完全なる決別は許されない」という無言のメッセージを大統領に送っていた――これが、今回のトランプ氏が「完全な決裂」に踏み込めなかった要因のひとつではないかと、私は考えている。