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パイロットには出来高払い、機体は最大限稼働…LCCが直面する課題

未来の空旅はどう変わるか・その3
日本の航空業界でもどんどん勢力を拡大しているLCC。その誕生から性格、そしてLCCが直面している問題点に迫ってみよう。首都大学東京特任教授で交通政策が専門の戸崎肇氏が、航空の現況と今後の展望・課題について利用者目線から追っていく、連載第3回!

JALはZIPAIR

3月8日、JALは2020年に中長距離を運航するLCC、ZIPAIR(ジップエア)を就航させると発表した。当面の就航先はタイのバンコクと韓国・ソウルである。

JALは2010年の経営破綻後、再建に全力を挙げ、今では世界でも有数の利益率の高い航空会社として復権を遂げた。そして、次の成長ステージに向けた大きなプロジェクトの1つがこの中長距離LCCである。

LCCという言葉も人口に膾炙するようになった。そして私たちはそれによって大きな利便性を獲得してきた。

一方、それと並行して、LCCの在り方は、今回のジップエアのように、創成期の頃のビジネスモデルと大きく変化してきている。

そこで、今回からは、LCCをめぐるこれまでの展開と将来展望について見ていくことにしよう。

アメリカ経済の大混乱

LCC(Low Cost Carrier)の歴史はそれほど古いものではない。

確かに欧米では、1990年代にはすでにLCCは注目され始めていた。その嚆矢となったのはアメリカのサウスウェスト航空である。

1980年代後半、日本はバブル経済によって狂乱的な繁栄を謳歌したが、1990年夏にその終焉を迎え、今日に至るまでその影響を引きずっているような感がある。

それに対して、アメリカは、1990年代に入ってからパワーを取り戻し、「ゴールデン・シックスティーズ」と呼ばれた、1960年代の再来ともいえるような好景気を謳歌した。

1990年代後半においては、当時のFRB(連邦準備制度理事会、日本の日本銀行に当たるアメリカの中央銀行)の議長であったグリーンスパン氏は、アメリカにはもはや不況は訪れないとまで言い放った。いわゆる「ニューエコノミー論」である。

しかし、その後の中東危機から燃油費が高騰し、雲行きが怪しくなる。2001年には米国同時多発テロが起こった。米国が初めて自国内において他国からの重大な脅威にさらされたのである。

これまで、世界で何か有事が起こった場合、世界で最も信頼があるドルが変われ、ドル高になるのが一般的な常識であったが(こうした思考は「有事のドル」と呼ばれる)、このテロによって常識が覆されることになった。

同年末には総合エネルギー取引とIT取引を行っていたエンロン社が巨額の粉飾決算によって経営破綻に追い込まれ、米国経済を震撼させた。さらに2002年には、大手通信事業者であるワールドコムが同じく粉飾決算が明らかとなって経営破綻した。

これらの大事件によりアメリカ経済は大混乱となった。2008年のリーマンブラザーズの経営破綻が起こるまで、ワールドコムの経営破綻はアメリカ史上最大の経営破綻であった。

さらに2003年にはイラク戦争が勃発する。戦争時において、株式市場は難しい局面を迎える。

LCCは幸福感をもたらす

こうした中にあっても増益を続けた企業の、共通した特徴が研究された(『破天荒2 仕事はカネじゃない!』ケビン・フライバーグ、日経BP社)。そのような企業の1つとして紹介されているのが、サウスウェストだ。

LCCの嚆矢となったサウスウェスト航空(photo by iStock)

その1つの結論は従業員、社員を大切にする企業が厳しい経営環境の中でも高収益を上げ続けていけるというものであった。

LCCというと、コストを徹底的に削減し、社員に過酷な労働を強いるというイメージを抱きがちである。しかし、LCCの代表的なモデルとされるアメリカのサウスウェスト航空自体が、そうした偏見を打ち破っている。

LCCはただ単に人々が安く移動できる手段を提供するだけではなく、その中で働く人々にとっても幸福感をもたらすものであるようだ。

その意味からすれば、日本においてLCCを「格安航空会社」と訳したのは誤りであったと言わざるを得ない。「安かろう悪かろう」のイメージを植え付けるものだからだ。「低コスト航空会社」とでも訳すべきだったのかもしれない。