「責任取れるの?」100億円のディールと、エリート女性同僚の忠告

東京マネー戦記【7】2000年夏
森 将人 プロフィール

ある地方信金の「巨額投資」

「ちょっと相談があるんだけど、いいか?」

営業部でぼくより5年ほど年上の担当者から電話があったのは、ある夏の日のことだった。

米国ではITバブルが崩壊して株価が急落、金利も大きく低下していた。日本のマーケットに一番影響が大きかったのは為替だろうか。1ドル=150円から100円近辺まで急激に上昇した円は、その後105円程度まで戻していた。

「どうしたんですか?」

「G信金のことなんだよ」

北関東地方に拠点をおく中規模の信用金庫で、新入社員の頃から出入りしている投資家だった。

 

「どうかしたんですか?」

「仕組み債を買いたいっていってるんだよ。為替レート連動の商品だ」

「すごいじゃないですか」

「運用を積極化する方針だ。普通であればいい話だ」

「違うんですか?」

「金額がちょっとな……」

「どうかしたんですか?」

「大きすぎるんだよ」

仕組み債とは為替に連動して利回りが決定される債券で、マーケットが安定しているときには利回りが高い。収益見通しの厳しい金融機関がしばしば手を出すことで知られていた。

驚いたのは、100億円という投資金額だった。

「100億ですか?」

「そうなんだよ。そんなの聞いたことないだろ」

「たしかに……」

ぼくの少ない経験で、それほど大きな金額の取引ははじめてだった。

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仕組み債に関する噂は、たいてい、投資に失敗したという内容が多かった。円安が進めば利回りが高くなるが、円高が進めば0%になることもある。98年に30円、99年には20円にも達した急激な円高の進行は、多くの金融機関に多額の損失をもたらしていた。

「どこかの証券会社に勧められたらしくてさ、理事長がすっかりやる気だよ。うちにも提案して来いってうるさいんだよ」

「買う方針は決まってるっていうことですか?」

「もう止まらないだろうな。うちから買わなければ、他社から買うだけだ。ちょっと考えておいてもらえないか?」

受話器を置くと、ぼくはG信金の保有資産を確認してみた。

2年前に訪問しはじめたときは、保守的な運用方針で、安全な資産しか購入していなかった。それがいつの間にか、外債や投信といった商品まで投資対象を広げていた。

地元景気の落ち込みから融資が伸びないのは、この地域特有のものではない。全国で見られる傾向だが、ここまで急ぐのはどんな理由があるのだろうか。