異性モテとは無縁
活字に恋した思春期

文学と哲学に夢中だった思春期の川上さんは、恋愛経験も少なく、芸能人を好きになる感覚にも一切ピンとこなかった。「音楽が好きで、その作り手としてミュージシャンを尊敬することはあっても、ご本人への興味はまた別ですよね」と。

「いわゆるモテとは無縁なんです。恋愛というものに主体性がなくて……。好きと言われてから一気に恋愛の舞台に上がるという認識の甘さです。ひとりの人とわりに長く付き合う感じでした。高校時代の同級生は、同じように本を読む人で、本を交換して、あっという間に響きあうものがあってという、ほぼ初恋みたいなその相手とずっと一緒にいました。結局のところ、文章とか言葉が好きなんでしょうね。外見よりもどんな言葉を使うかとか、そっちのほうがすごく重要です」 

今でこそ乗り越えられたコンプレックスだと言うが、自身の離れ目が嫌でしかたなかったこともあったそう。

「安室奈美恵さんの登場で市民権を得るまで、離れ目はブサイクの象徴だったんです。今はお化粧しているけれど、昔は全然してなかったし。根深く残っているのが、スカートめくり問題。子どものときって、男の子に欲望されることがある種の自信につながるようなことがありますよね。その逆も然りですが、自分を見つめる前に、親から女らしくしろと言われたり、男性から見初められる論理で育つと、男の子からスカートめくりされることが価値になってしまうという辛さがありました。間違っても女の子が『将来は首相になりたい』とかは言えなくて。私はスカートめくりされるような対象じゃなかったけれど、されないことに傷つきもした。傷つく必要なんてまったくないのにね……なんだか腹が立ってきたな(笑)。モテコードから離れて自由に生きている女の人たちにも、そういう理不尽な思いをした歴史はあるんじゃないかな」
 

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その後、高校のデザイン科へと進学し、かわいい=モテという画一化された価値観ではない社会に触れたことで、表現者としての川上未映子がムクムクと行動を始めた。

「軍払い下げの鉄板入りの靴を履いたり、金髪では物足りずオレンジ色の髪にしたり、いかに目立つか、より面白いか、そのほうがモテることより断然、価値があった。そういう文化の中で過ごせたことは幸運でしたね。その頃は、哲学の勉強をしたいとも考えていたし、歌を歌いたくてバンドをやったりもしました。でも、夢を追いかけるだけでは成り立たない家庭環境だったので、すぐ働き出しましたけど」

当時、弟を大学へ行かせるため、書店員や歯科助手、高級クラブのホステスをするなど昼夜問わず働いていた彼女は、通信制大学の存在を知り、それなら自分でもやりくりできると心を躍らせたそう。「キャンパスライフなんてどうでもいい。とにかく学びたい」の一心で勉学に励んだ。