矛盾や疑問が蓄積する日々を
文章で声に出すことを知った

多感とはいえまだ幼かった川上さんには、自分が覚えた矛盾や疑問を伝える手段としての言葉が与えられていなかったという。日に日に不安が膨らんでいくばかりだった彼女が、素直な気持ちを初めて綴ったのが、小学3年生のときに書いた作文だった。矛盾や疑問が蓄積する日々を文章で声に出すことを知った。

「子どもが『なんで私を産んだん? なんで死ぬん?』と言うのはタブー。親に聞いても『子どもは子どもらしく走ってこい!』とあしらわれておしまい(笑)。そんなとき、自由テーマの作文で『みんないつか死んでしまうなら、できれば私は誰よりも先に死にたい』というようなことを書いたんです。そうしたら、先生から名前を呼ばれて、怒られるのかと思いきや拍手をしてくれたんですね。『先生にもその答えはわからないけれど、考え続けることは大事やと思います』と言ってもらえたことがもう嬉しくて。トイレで大泣きしました。初めて他人から認めてもらえたんだなと思いました」

10代で、表向きの教科書には書かれていないことをもっと知りたいという欲求から、図書館へと足繁く通うようになる。そこには、漂白されていない文学という世界が待っていた。 

「みんなが悩み苦しんでいること、本当に知りたいことについて触れているのが文学ですよね。でも、読めば読むほど、まったく霧は晴れないわけです。もやもやが言語化されるから更に理屈っぽくなって、がんじがらめになって、あっという間に中二病のできあがり(笑)。でも、物語じゃなくてもっと根源的なことが知りたくなってくる。すると、どうやら哲学というものがあるらしいと。ひらめきや霊感じゃない、誰にとってもロジカルな方法で、感情よりも真理を教えてくれ! というときに読んだのが、カントについての本でした。これだった、私が知りたいのは、という感激がありましたね」