作家であり、母であり、妻である川上未映子、39歳。彼女の人生をひもときながら、再婚、出産を選択した理由、母との確執からの卒業、そして、これから残していきたい作品への思いについて聞いた。美しく、ときに可憐に見せながらも、勇ましく戦い続ける彼女の力強い言葉の数々は、青く静かに燃える炎のように、心に響いた。

その不安は今もあるし、
だから物を書いているのかもしれない

「写真を撮られるのは苦手なんですよ。いつもは家でパソコンを前にひっそりカタカタやっているのに、日常とのギャップがすごくて(笑)」

そう笑いながらも、カメラの前に立つとくるくると表情を変えてみせる。作家・川上未映子さんは、常に彼女とコミュニケートする人たちの期待に応え、進化し続けてきた人なのではないだろうか。そんな繊細さと、相反する大胆なたくましさが、彼女の言葉や存在から垣間見える。
 
35歳で経験した初めての妊娠、出産、育児についてあけすけに綴ったエッセイ『きみは赤ちゃん』(注)が、出産や育児を経験した人のみならず、未婚の読者からも多くの共感の声を集め、働く美しき母のロールモデルとなった彼女。そしてこれまで執筆した作品は、芥川賞、谷崎潤一郎賞など名だたる文学賞を受賞。2011年には同じく芥川賞作家の阿部和重さんと再婚するなど、まさに順風満帆、すべてを手に入れてきたかのように思える彼女だが、自身を “ネガティブ・ネイティブ” と称するほど根が暗いらしい。

(注)『きみは赤ちゃん』
つわり、マタニティー・ブルー、出生前検査を受けるべきかどうか、心とからだに訪れる激しい変化、そして分娩の壮絶な苦しみなどなど、妊婦が経験する出産という試練の一部始終が、ときに、辛辣にときにユーモラスに語られていく。出産を経験した人も、これから経験しようとしている人も楽しめる、出産・育児エッセイ ¥1300/文藝春秋

 
「みなさんあまり言葉にしないだけで、子どもの時期は地獄みたいなものでしょう。とても長い地獄。もちろん一概には言えないけれど、子どもは無力だし、環境を選べないですから。私に限って言えば、子ども時代に笑って過ごしていたという印象は少ないですね。

理由は何重にもあって、一つは父が今でいうマッチョな人だったので、家族みんなが家長である父にとても気を遣っていたこと。母親が家事をすべてやりながら働いていたこともあり、理不尽だなという思いを抱きやすい環境ではありました。

同時に、自分も含めていつかみんな死ぬということが私には一大事で。たとえば自分の手を見て、これが焼かれるときが、嘘じゃなく本当に来る、そう気づいたときにすごく怖くなったんです。生きていることや死んでしまうことの意味なんて、普段は見過ごして生きていかざるを得ないことなのに、その根源的な不安がいつも後ろから自分のことを見ているような気がしていました。振り返るとまたいなくなるのだけれど、ふと忘れた頃にノックしてくる。その不安は今もあるし、だから物を書いているのかもしれません」