「刺繡というと、難しそうに感じたり部屋でチクチクと刺す孤独なイメージがあったりするかもしれませんが、針と糸さえあれば始められミシンを必要とせず場所も選ばないので、実は入りやすいクラフトの一つなんです」(DMC広報&マーケティング 髙橋百合子さん)
PROFILE
DMC広報&マーケティング
髙橋百合子さん
刺繡偏愛歴20年。アパレルメーカーにてトレンド分析、バイヤー兼プレスなどを経て、手作りの魅力を再認識。現在は世界中にファンをもつフランスの老舗刺繡糸メーカーDMCジャパン支社にて広報兼マーケティングとして活躍中。「手作りのあるライフスタイル」をテーマに様々な企画や商品を展開。
『べっぴんさん』が火付け役に
©NHK
少しずつ静かなブームとなっていた刺繡だが、それをさらにメジャーに押し上げたのが、朝ドラ『べっぴんさん』。
「べっぴんさんの影響で刺繡を意識する人が増えています。SNS等見せられる場があることで、作る楽しみだけでなく、披露する楽しみが生まれたんです。一人で地味にチクチク刺すイメージが覆され、刺繡人口が一気に増えましたね」 ©NHK NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』で登場するクラシックで美しい刺繡デザインも話題。
今、刺繡がアツい理由
Reason1
「1色だけ&太め」が爆発的HIT
樋口愉美子さんが約3年前に出版した1色刺繡の本。そのシンプルで北欧的なデザインが大ブレイク。 作家 樋口愉美子さん
ブームの火付け役となった樋口愉美子さんの最初の刺繡図案集『1色刺繡と小さな雑貨』(文化出版局)
「それまで刺繡は古い、手間がかかりそうと敬遠されていたんですが、オシャレだし自分でも作れそう!と新たに始める人が急増したんです。その翌年樋口さんが出されたウール糸で刺す刺繡本も、太糸ならではの可愛らしさ、仕上がりの早さから大ヒット。完全に刺繡界のトレンドを変えました!」
刺繡自体もブレイクするきっかけに。 『素朴で優しいウール糸の刺繡図案集WOOL STITCH』(マガジンランド)はぬり絵感覚で楽しめる刺繡として大人気。 @sewandsaunders @cinderandhoney
@elizabethpawle
英国のテキスタイル作家Elizabeth Pawle(@elizabethpawle)もウール糸で刺すスタイル。カラフルな糸を縦横に刺していくだけで、難しい技術を用いない。
Joe Saunders(@sewandsaunders)は1色で刺すリーフのデザインで有名。よくあるモチーフだが、色数を抑えているのがモダン。
1色の糸で同じ模様を繰り返したバンクーバー在住のCaitlinBenson(@cinderandhoney)の連続模様デザイン。昔からある技法で、初心者でもできる簡単さだが、とても今っぽい。
Reason2
GUCCI2016の秋冬コレクションで
モード界も夢中に
2016AWコレクションではGUCCIが鮮やかな刺繡デザインをあしらったアイテムを多数発表、瞬く間にモード界でも刺繡ブームに火がついた。 ©gettyimages
「ファッションに華やかな刺繡が台頭してくるのは、景気を明るくしたいという心理が強いときなんです。無機質なネット社会から離れようと手作りが注目を集めている、という傾向もあるのではないでしょうか」 ©gettyimages
ジャケットの全面にカラフルな刺繡をほどこすなど、大胆なデザインが人気の主流。デニムと刺繡の相性の良さも注目を集めており、今年はさらにバリエーションが増えそう。 @teeteeheehee
シンガポールの刺繡アーティストTeresa Lim(@teeteeheehee)は、風景や人物を刺繡で表現することで有名。GUCCIのキャンペーン# GucciGramでもコラボしている。
Reason3
刺したいものを刺す
ライフスタイル系モチーフ
刺繡界ではもともと花や鳥、蝶といった自然界のデザインが定番人気。そこへ数年前からボタニカルブームが起こって、刺繡をやっていなかった人たちからもインテリアとして注目されるように。
「刺繡大国フランスは酪農が盛んなので、牛のデザインも多いんですよ。日本では、最近猫のデザインがブーム。トレンドが強く影響するようになり、新たなファンが増えていますね」 @sarahkbenning @emillieferris
多肉植物や鉱物などコンテンポラリーなモチーフを施したSarah Benning (@sarahkbenning)のインスタグラムは、手芸ファンの間では有名。
英国の作家Emillie Ferris(@emillieferris)。写実的な野生動物や、ペットのポートレートをモチーフにしている。最近はこのように刺繡枠に入れたまま飾るスタイルも流行中。
Reason4
どっちが好み?アナログ&デジタル図案
刺繡ブームを受けて激増しているのが、まずアーティスティックなイラスト等を描きそれを刺繡するという“図案発”スタイル。
「彼らは刺繡というより、絵のほうが先というタイプ。とくにアメリカでブームで、ドクロやインディアンといったこれまでにはない独特のモチーフを描いたりしています。これらを作品としてインスタ等で発表するのは、完全に新しいトレンドですね」 @oddanastitch @ipnot
アナログな線画を刺繡したアーティスティックなデザインが話題の@oddanastitch。「彼らの多くは独学で刺繡を学んでいて、技法だけに囚われない表現が面白い」そう。
よく見るとすべてが玉留め技法に似たフレンチノットステッチだけで表現されている作家@ipnot。ドットで画像を表現するデジタル感覚の持ち主。
クロスステッチデザイナー 大図まことさん
昔からあるクロスステッチ刺繡を、ファミコン世代には懐かしいピクセル画のグラフィックと捉えた、新しいモチーフが新鮮。
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●情報は、FRaU2017年3月号発売時点のものです。
Text:Naoko Yamamoto